神農祭市民公開講座「大阪・関西万博こぼれ話と未来医療」 森下竜一2025大阪・関西万博大阪ヘルスケアパビリオン総合プロデューサー(大阪大学大学院医学系研究科寄附講座教授)

大阪・関西万博 大成功裏で閉幕
黒字額もミャクミャクの継続販売好調でさらに増収予想

 神農祭本宮に薬業クラブで開かれた神農祭市民公開講座では、森下竜一2025大阪・関西万博大阪ヘルスケアパビリオン総合プロデューサー(大阪大学大学院医学系研究科寄附講座教授)が「大阪・関西万博こぼれ話と未来医療」について講演した。
 「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに4月13日~10月13日までの184日間、大阪夢洲で開催された大阪・関西万博は、来場者数2557万8986人(関係者含めると2901万7924人)、230~280億円の黒字、万博の経済効果2.9兆円、来場者消費1兆円を記録し、国際的知名度の向上や地域経済への貢献など多岐に渡る面で大成功裏に終えた。

今なお売れ続けるミャクミャクのグッズ

 森下氏は、「大阪と関西の底力を示せた」と振り返り、「依然としてミャクミャクが大変売れており、個人的には黒字額も300億円くらいになると思っている」と予測した。
 総合プロデューサーを務めたヘルスケアパビリオンにも言及し、「当初の来場者予想は280万人であったが、終わってみると全パビリオンの中で最多の553万人の来場者数を集めた」と報告。
 その要因を「体験型のどの年齢層も楽しめるというコンセプトが良かった」と分析し、「来館者の健康意識は非常に高まったと思われる。ホップとしては良かった」と評価した。その上で、「後は、実際に行動変容に移すことが重要である。産業界、医師や薬剤師の皆さんからそのための啓発をして頂ければ、大阪ヘルスケアパビリオンの成果がレガシーとして継続できる」と訴えかけた。
 また、大阪ヘルスケアパビリオンの来場者から得た50万人以上のカラダ測定ポッドのデータ(匿名)は、健康寿命延伸のための「EXPO版エイジングクロック」研究として、大阪大学と抗加齢医学会で分析を開始していることも併せて報告した。

大阪ヘルスケアパビリオン
万博パビリオン中最多の553万人の来館者記録

 講演で森下氏は、まず、大阪・関西万博の大成功を裏付ける根拠として、「万博ロスの人が多い」と指摘し、「多分一番それを感じているのは吉村大阪府知事だと思う。関係者の中で来場回数が最も多く、万博最終日も朝6時半から深夜10時までずっと会場におられた」と明かした。
 収支決算額についても「現在、 230億~280億円という数字が出ているが、依前としてミャクミャクが大売れしており、私は300億円いくと思っている」と予測。さらに、「これからのメディアの話題は、この黒字を誰が 使うかに向かうだろう」と話した。
 ミャクミャクの最低ロットのロイヤリティは売上高の10%だが、この最低ロットを超えて再度製造すればロイヤリティは13%に上昇する。「通常、再製造の場合ロイヤリティは下がるが、逆に上がるという普通ではあり得ないビジネスモデルになっている」と打ち明けた。

 大阪・関西万博には158カ国が出展し、アメリカ館、イタリア館など、独自のパビリオンは47カ国を数えた。開幕後、最後にオープンしたネパール館も人気を集めた。イタリア館は、イタリアで見れない美術品の展示が相次いだ。「レオナルドダビンチのスケッチ画も4種類あり、2 種類ずつ交互に展示され、パビリオンは連日長蛇の列となった」 現在、これらの美術品は、大阪市立美術館(大阪市天王寺区)の「イタリア館の至宝展」で展示されている。
 フランス館も「ルイビトン」を中心に、女性に人気を博した。「リボーン」をテーマとした大阪ヘルスケアパビリオンには553万人が来館し、万博パビリオン中、最多の来館者を記録した。
 大阪ヘルスケアパビリオン来場者の居住地構成は、近畿65.2%、関東15.8%、中部10.1%、九州・沖縄2.6%、中国地方2.4%、四国1.6%、北海道0.9%、東北0.7%、その他0.7%。年齢構成は、50代が31.7%と最も多く、40代22.4%、60代16.9%、30代13.5%、20代11.1%と続く。

大阪ヘルスケアパビリオン

 大阪ヘルスケアパビリオンでは、未来のゲートで来館者の健康状態をスキャンし、2050年の未来都市に向け てリフトライドに乗り込む。ライドから降りるとスキャンしたパーソナルヘルスレコード(PHR)から 生まれた2050年の未来の自分のアバターが出迎える。この斬新な企画は、多数の来場者の興味を引いた。データごとに提案される未来のフードや 未来のヘルスケアでの体験も人気を博した。

アバター作成での測定項目

 2050年の自分のアバター作成では、「髪ランク」、「肌ランク」、「脳ランク」などの項目が測定される。その中の「脳ランク」測定では、視線を利用したアイトラッキング式評価法が採用されている。

深度センサと顔認証技術を利用したアイトラッキングアプリ (2022年12月号 科学雑誌「ネイチャー」より転載)

 同評価法は、森下氏の研究室が開発したもの。数分間映像を眺めるだけで、その視線の動きから低ストレス、簡易、客観的に認知機能を簡便に評価できる。
 従来の認知機能検査法(MMSE)は、10~20分程度医師との対面による問診形式で行われるため被験者の精神的ストレスが高く、医師の労力的負担も大きい。加えて、客観的な評価がボトルネックとなっていた。
 一方、アイトラッキング式検査法を用いれば5分~10分でかなり詳しい検査ができるので、認知症の早期発見・予防への活用に期待が大きい。アイトラッキング式で認知機能を評価する「ミレボ」は、2023年10月、医療機器プログラムとして製造販売承認を取得。2025年に保険適用され、大塚製薬から販売されている。
 現在、日本では60歳以上の5人に1人が認知症当事者で、総数は約500万人に上る。軽度認知機能障害も約500万人を数えるが、早期発見・早期治療介入により、まだまだこれを減少できるため、「ミレボ」への期待は高い。
 また、大阪ヘルスケアパビリオンの来場者から得た50万人以上のカラダ測定ポッドのデータ(匿名)は、「健康寿命延伸のための“EXPO版エイジングクロック”研究として、大阪大学と抗加齢医学会で分析を開始している。同パビリオンの体験システムは、「レガシーとして間もなくJR大阪駅などに再登場する予定」である。

ミライ人間洗濯機

 前回の1970年大阪万博では、電気自動車、携帯電話、動く歩道、ブルガリアヨーグルトなどが紹介され、社会実装されてきた。その中で唯一実装化されなかった「人間洗濯機」も、今回の万博でアップデート版の「体だけでなく心も自動で洗う」“ミライ人間洗濯機”として展示された。
 ミライ人間洗濯機は、当初販売を予定していなかったが人気が高く、「海外で2台、国内で6台の販売が決まった。値段は1台 10億円程度していたが、市販品はもう少し安くなる」という。

XD HALL

 最新式のVRを導入したXDHALLの「モンスターハンター」は、万博の中で最も予約混難であったが、10万人が入館した。

iPS細胞

 森下氏は、大阪ヘルスケア館のレガシーについて、「成人の来場者に加えて大阪府内の小学生、中学生も招待され、iPS細胞や人間洗濯機を見て健康に対する意識は高まった。ホップとしては良かった」と指摘。その上で、「後は、実際に行動変容に移すことが重要である。産業界、医師や薬剤師の皆さんからそのための啓発をして頂ければ、大阪ヘルスケアパビリオンの成果が継続できる」と訴求した。
 大阪・関西万博のレガシーにも言及し、「本年3月4日に、“最大の木造建築物として”ギネス世界記録に認定された大屋根リング(円周約2km、建築面積約6万1000㎡)は、今のところ大阪ヘルスケアパビリオン付近の200mが残る予定である」
 なお、同講座の全容は、医薬通信社が協力配信しているYouTube(動画URL https://youtu.be/igrZiw43dro?si=rsKltysw5uytUn21)で視聴できる。
 

タイトルとURLをコピーしました