ドクタートラストは、ストレスチェック研究所では、ストレスチェックサービスを利用した7779組織、累計受検者267万人超のデータを活用してさまざまな分析を行っている。
今回は2024年度にストレスチェックを受検したおよそ56万人(1,777組織)における集団分析データをもとに組織規模別の受検率やストレス状況を分析するとともに、2028年からストレスチェックの実施が義務付けられる見込みの「50人未満の組織」に着目した回答傾向の分析を行った。
その結果、「受検率が最も高いのは従業員数50人未満の組織、300人以上の組織は全国平均を下回る」、「高ストレス者率が最も高いのは従業員数50人未満の組織」、「最も低いのは1000人以上の組織」であることが判明した。
従業員数50人未満の組織で他の組織規模よりも不良だった設問は、① 意欲を引き出したり、キャリアに役立つ教育が行われている、 ② 私たちの職場では、お互いに理解し認め合っている、③ 職を失う恐れがあるーであった。
従業員数50人未満の組織で他の組織規模よりも良好だった設問は、 ① からだを大変よく使う仕事だ、 ② 自分で仕事の順番・やり方を決めることができる、 ③ 私の職場の作業環境(騒音、照明、温度、換気など)はよくないーとであった。
ストレスチェック制度は、労働者のメンタルヘルス不調の予防を目的として、2015年以降従業員数50人以上の事業場で年1回の実施が義務づけられている。また、現在は「努力義務」である50人未満の事業場でも2028年の春には実施が義務づけられる見込みである。
ドクタートラストでは制度開始から9年間にわたり、全国官公庁・事業団体など各組織に応じたストレスチェックを提供してきた。現在では通常の57項目版とあわせて、より詳細な解析が可能である80項目版や独自の設問をご用意している。また、集団分析結果のフィードバックや受検後相談窓口等のアフターフォローも提供しており、国内トップクラスの受検者数を誇っている。
規模別の受検率、ストレス状況
1、受検率が最も高いのは従業員数50人未満の組織、300人以上の組織は全国平均を下回る
今回の組織規模別分析では、ドクタートラストでストレスチェックを実施した法人について次の4つに分類している。
① 従業員数1,000人以上
② 300~999人
③ 50~299人
④ 50人未満
図1は規模別の受検率を示している。受検率とは、対象者数に対して実際に受検をした人がどのくらいいるかを示した割合である。2024年度にドクタートラストでストレスチェックを受検した組織の受検率の平均は88.7%(対象者62万6794のうち55万5956人が受検)であった。

図1
受検率が最も高かったのは従業員数50人未満の組織で、受検対象者のうち92.8%がストレスチェックを受検していた。現段階での従業員数50人未満の組織でのストレスチェックの実施は努力義務である。そうしたなかで受検率を高く保っているのは、企業も従業員側もストレスチェック、およびストレスチェックの活用に前向きであるからではないかと考えられる。
2、高ストレス者率が最も高いのは従業員数50人未満の組織、最も低いのは1,000人以上の組織
高ストレス者率とは、実際に受検をした人のなかで、高ストレス者と判定された人がどれくらいいるかを示した割合である。
<高ストレス者とは>
・ ストレスの自覚症状が強い人
・ ストレスの自覚症状が一定程度あり、かつ仕事の負担と周囲のサポート状況が著しく悪いと判定された人

図2
図2は高ストレス者率を組織規模別に示したものである。従業員数50人未満の組織の高ストレス者率は15.7%で、1,000人以上の12.4%にくらべて3.3ポイント高いことが判明した。また、従業員数50人未満と50~299人、300~999人の規模での高ストレス者率に大きな差は見られなかった。
だが、10人規模の15%は約1~2人であり、1人の不調で業務が止まったり、全体の士気が落ちたりするなど組織全体に与える影響は大きい。さらに厚生労働省が公表した「労働災害動向調査」によると組織規模が小さくなるほど労働災害の発生頻度、損失日数が多い傾向にあることがわかっている。
一方で、小規模の組織では従業員同士の距離が近く、日々のコミュニケーションの中でちょっとしたストレスの予兆に気づきやすいなどの利点がある。そのため従業員の体調や勤務状況など日々の変化への気づきを見逃さないことが大切となる。
「50人未満の組織」に着目した回答傾向の分析
図3~8は、従業員数50人未満の組織が他の規模にくらべて不良だった設問と良好だった設問を示している。
1、50人未満の組織は「キャリア形成」、「職場の一体感」、「安定報酬」が不良傾向
図3~5は従業員数50人未満の組織が他の規模にくらべて不良だった設問である。

図3

図4

図5
図3~5のとおり、従業員数50人未満の組織は他の規模にくらべて、「キャリア形成」、「職場の一体感」、「安定報酬」に関する項目において不良傾向にあることが明らかになった。また、従業員数50人未満と1000人以上の組織において「意欲を引き出したり、キャリアに役立つ教育が行われている」の設問では12.7ポイントの差がみられた。
2、50人未満の組織は「身体的負担」、「仕事のコントロール」、「職場環境」が良好傾向
図6~8は従業員数50人未満の組織が他の規模にくらべて良好だった設問である。

図6

図7

図8
図6~8のとおり、従業員数50人未満の組織は他の規模にくらべて、「身体的負担」、「仕事のコントロール」、「職場環境」など身体的な業務負荷や仕事の質、作業環境に関する項目において良好傾向が見られました。
まとめ
ストレスチェックの集団分析結果を組織規模別にみたところ、受検率が最も高いのは50人未満の組織でした。同様に、高ストレス者率が最も高かったのも50人未満の組織であることが判明しました。
50人未満の組織に着目した分析では、「身体的負担」、「仕事のコントロール」、「職場環境」に関する項目が良好傾向でした。規模が小さいからこそ従業員同士の距離が近く、個々のスキルや裁量に応じた柔軟な働き方ができていると考えられます。
一方で、「キャリア形成」、「職場の一体感」、「安定報酬」に関する項目が不良傾向にあることがわかりました。厚生労働省の調査(※)でも、従業員数が少なくなるほど離職率が高くなることが示されており、人材定着やモチベーション向上の観点からもキャリア支援の強化や待遇についての見直しが求められます。
教育体制や給与形態などの制度的な改善には時間を要しますが、職場の一体感は日常のコミュニケーションで変えていくことが可能です。日々の情報共有や発信を継続することが一体感のある職場づくりの土台になるでしょう。
2028年5月までには従業員数50人未満の事業場でストレスチェックが義務化される。従業員と距離が近い小規模組織の特徴を生かし、現段階から状況に応じて導入を検討しよう。
◆文責:押切愛里氏(ストレスチェック研究所 アナリスト)

