武田薬品は8日、ナルコレプシータイプ1治療薬として開発中のファースト・イン・クラスの可能性を持つ経口オレキシン2受容体(OX2R)選択的作動薬「oveporexton(TAK-861)」について、同日、シンガポールで開催される「World Sleep 2025」でP3試験データを発表することを明らかにした。
同学会において、2つの国際共同P3相、無作為化、二重盲検、プラセボ対照臨床試験のデータを複数題発表するもの。口頭およびポスターセッションで、NT1患者に対するスティグマの影響、より正確なNT1診断のための睡眠アルゴリズムおよびオレキシンバイオマーカーの評価、患者さんの治療満足度調査、認知機能、マイクロスリープ、日中の入眠症状に対する影響等、oveporexton 第2b相臨床試験からの追加解析結果も発表する。
FirstLight(TAK-861-3001)とRadiantLight(TAK-861-3002)の両試験ともに、NT1の幅広い症状に該当するすべての主要評価項目および副次評価項目においてプラセボと比較して統計学的に有意な改善が示されており、12週時点では、すべての用量群(1mg1日2回/2mg1日2回)でp値は<0.001であった。
oveporextonの忍容性は概ね良好であり、安全性プロファイルはこれまでの臨床試験と同様であった。治験薬と関連のある重篤な有害事象の報告はない。主な有害事象は不眠、尿意切迫および頻尿であった。
NT1は、脳内のオレキシンニューロンが減少することで引き起こされる慢性かつまれな神経疾患であり、それにともなう様々な症状は日常生活に支障をきたす症状を引き起こす。
現在、利用可能な標準治療は、患者が直面する症状の一部にしか対処できていない可能性がある。オレキシン作動薬であるoveporextonは、NT1を引き起こすオレキシンの欠乏に対処することで、NT1の広範な症状を改善するように設計されている。
oveporextonは武田薬品の研究所で発見された。P3試験であるoveporextonプログラムは、NT1を対象とした最大規模で最も包括的な開発プログラムの1つである。
これらの試験では、19カ国から273例の患者を対象に、12週間にわたり14の主要評価項目および副次評価項目を検討した。
これらの試験を完了した被験者の95%以上が実施中の長期継続投与(Long-Term Extension, LTE)試験に組み入れられた。
同学会での口頭発表には、覚醒度に対する客観的評価および患者報告による主観的評価の他、カタプレキシー、症状の重症度および生活の質を含む次のデータが含まれる。
・覚醒:oveporextonは日中の過度の眠気(Excessive Daytime Sleepiness, EDS)を改善し、12週時点の覚醒維持検査(Maintenance of Wakefulness Test, MWT)による平均睡眠潜時およびエプワース眠気尺度(Epworth Sleepiness Scale, ESS)スコアのベースラインからの変化が、すべての用量群でプラセボ群と比較して統計学的に有意な改善を示した。2mg1日2回投与群の被験者の大多数が、MWTで正常範囲内(≧20分)とされる覚醒を達成し、被験者の85%近くが健常者と同程度のESSスコア(≦10)を達成した。
・カタプレキシー:oveporexton群の1週間あたりのカタプレキシー発現率(Weekly Cataplexy Rate, WCR)は、12週にわたり、すべての用量群でプラセボ群と比較して有意に低下しました(ベースラインからの変化率の中央値は80%超)。カタプレキシーが発現しない日の頻度をプラセボ群と比較した検討では、中央値でベースラインでは週あたり0日であったのが、12週時点で週あたり4~5日にまで改善した。カタプレキシーはNT1の特徴的な症状であり、強い感情によって引き起こされる筋緊張の突然の喪失である。
・症状の重症度:oveporextonは、プラセボ群と比較して、ナルコレプシー重症度尺度(narcolepsy severity scale, NSS-CT)の総スコアにおいて、ベースラインから統計学的に有意な変化を示し、すべての用量群で70%を超える被験者が最も低い重症度(軽度、スコア0~14)を示した。
また、種々のナルコレプシー症状に対する患者の全体的な自己評価となるPatient Global Impression of Change(PGI-C)スコアでは、統計学的に有意な改善が認められ、投与を受けたほぼすべての被験者(97%)において改善が報告された。
・生活の質:SF-36(Short Form-36-item)による生活の質の評価において、oveporextonは統計学的に有意な改善をもたらし、スコアは正常範囲とされるレベルにまで達した。これらの結果は、EQ-5D-5L (EuroQol 5-Dimension 5-Level)を含む探索的評価項目の顕著な改善によって裏付けられている。
・安全性プロファイル:いずれの試験でも、oveporextonの忍容性は概ね良好であった。治験薬と関連のある重篤な有害事象の報告はなかった。過去の臨床試験で得られた結果と同様に、最も多く認められた有害事象は不眠、尿意切迫および頻尿であった。ほとんどの有害事象は軽度から中等度であった。
◆FirstLightP3試験治験責任医師で発表著者の1人のEmmanuel Mignot氏(M.D., Ph.D.)のコメント
我々の研究では、オレキシン欠乏がNT1の原因であり、日中の過度の眠気や情動脱力発作(カタプレキシー)などの症状を引き起こすことが示されている。OX2Rを標的とする武田薬品の革新的な努力により、oveporextonのP3試験で良好な結果が得られた。これにより、NT1の根底にある原因に対処する初のオレキシン治療に大きく近づき、現在の治療パラダイムを変革する可能性がある。
◆サラ・シーク武田薬品ニューロサイエンス疾患領域ユニットヘッド兼グローバル開発ヘッド(MD, M.Sc., B.M., B.Ch, MRCP)のコメント
当社は、オレキシンのサイエンスと医薬品開発におけるリーダーシップを活かし、規制当局と協力してoveporextonを患者さんに迅速にお届けすることを目指している。本学会でこの革新的な結果をお伝えできることを大変嬉しく思う。この結果は、患者さんにとって重要となる複数の治療指標で確認されており、治療の新たな時代の可能性を示すものだ。