データでみる医療・医薬の世界 八野芳已(元兵庫医療大学薬学部教授 前市立堺病院[現堺市立総合医療センター]薬剤・技術局長) 第10回

第1節:食生活と栄養

第1節:食生活と栄養

(1)食生活の変遷(in19.5.28:Tue.寄稿済)

(2)食生活とライフステージ&附則「天寿を全うする」って・・・(in19.7.3:Wed.寄稿済)

(3)摂取栄養の変化 [「栄養面から見た日本的特質」:農林水産省] (in19.8.25:Sun.寄稿済)

(4)食生活に重要な栄養素 ―種類とそのはたらき―  (in19.9.26:Thu.寄稿済)

(5)栄養素の消化・吸収・代謝 (in19.10.7:Mon. 寄稿済)

(6)エネルギーの摂取と消費 (in19.11.1:Fri.投稿済)

第2節:医療と食事

  • 医療機関における食事・栄養 (in19.12.5:Thu.投稿済)
  • 疾患領域別栄養食事療法&薬物療法

 I.循環器疾患 (in20.1.6:Mon.投稿済)

II.消化器疾患(1、2)

この項目では、①胃・十二指腸潰瘍、②炎症性腸疾患、③肝臓病、④胆石症・胆嚢炎、⑤膵臓病の5つの疾患を取り上げ、その病態と栄養療法および薬物療法についてまとめる。

  • 胃・十二指腸潰瘍 (in20.3.26:Thu.投稿済)
  • 炎症性腸疾患

【炎症性腸疾患の病態、栄養療法について(1、2、3)

炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)とは、腹痛・下痢・血便・下血・発熱・体重減少などを伴う腸管病変を主とする難病で、一般的にはクローン病(Crohn’s disease:CD)と潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)のことを示す。これまでわが国ではきわめて患者数の少ない疾患であったが、2012(平成24)年度における特定疾患医療受給者証交付者数は、クローン病が約36,400人、潰瘍性大腸炎は約143,700人となり、年々増加している。また、青年期での発症が多い。平成30年度末現在での厚生労働省衛生行政報告例では、クローン病の総数は、42,548人、潰瘍性大腸炎は、124,961人でその年代別内訳は表1の通りで、クローン病の患者数では、30代40代が多く、潰瘍性大腸炎の患者数は、30代、40代、50代では2万人を超えている。

表1:平成30年度末現在での厚生労働省衛生行政報告例

  総 数 0~9歳 10~19歳 20~29歳 30~39歳 40~49歳 50~59歳 60~69歳 70~74歳、 75歳以上
クローン病 42,548 1 783 7,676 10,155 11,721 6,923 3,210 985 1,094
潰瘍性大腸炎 124,961 9 1,416 12,784 20,340 29,347 24,169 19,321 7,952 9,623

[増え続けている潰瘍性大腸炎(3)]

炎症性腸疾患は、種々の原因によって腸管に炎症をきたす疾病である。非特異性(潰瘍性大腸炎,クローン病)と、感染性(細菌,ウイルス)とに大別される。また、このほかに腸結核、薬物性・放射線照射性などによるものがある。そのなかで、クローン病は限局性回腸炎ともいわれ、原因が不明で消化管金屑にわたって炎症性変化がみられ、非連続性に深い潰瘍を生じる疾患である。その発症原因については、図1(2)のチャートに示すように、食事の欧米化による動物性蛋白質・脂肪の摂取の増加や甘味料などの「食事抗原」と、パラ結核菌・エルシニア菌・麻疹ウイルスなどの「細菌・ウイルス」の環境因子と、遺伝的因子とで発症要因を構成して誘発されると考えられている。また、急性期の治療目的としては、病気の進行を防ぐ目的から、病変部位を刺激する因子、タンパク質・脂肪・残渣を避けて、炎症の鎮静化をはかることになる(図2(2))。このような治療目的に適した栄養剤として、「成分栄養剤」がある。



また、炎症性腸疾患の病態、栄養療法については、表2(1)にまとめた。

表2(1)


疾患
病態 栄養療法の原則 栄養療法の実際
炎症性腸疾患 (inflammatory bowel disease: IBD) クローン病(Crohn’s disease:CD)潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC) 腹痛・下痢・血便・下血・発熱・体重減少などを伴う腸管病変を主とする難病で、一般的にはクローン病(Crohn’s disease:CD)と潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)のことを示す。クローン病は、原因不明の炎症性腸疾患で口腔から肛門までの消化管のあらゆるところに発症するが、主に小腸と大腸に発症し、縦走潰瘍や敷石状潰瘍を生じる。寛解と再燃を繰り返し、腸管の狭窄・裂溝・瘻孔を形成することがある。病変部を切除してもほかの部位に発生することが多いことから、閉塞や壊死をおこした場合にのみ外科的手術が適応される。潰瘍性大腸炎は、大腸粘膜を障害し、びらんや潰瘍を形成する原因不明のびまん性特異性炎症である。その経過中に再燃と寛解を繰り返すことが多く、口内炎や関節炎などの腸管外合併症を伴うことがある。   クローン病:腸管の広範囲に病変がある、強い狭窄や瘻孔があるなど重篤な場合には、腸管安静を保つために絶食とする必要があるが、この間も必要な栄養量を投与するために、中心静脈栄養法を実施する。腸管がある程度使用できるようになれば、成分栄養剤による経腸栄養法を行う。さらに、腸管の状態が改善されれば、経腸栄養法と低脂肪・低残渣食を併用し、徐々に食事の割合を増加させていく。寛解期となっても、基本的には普通食とせずに、低脂肪・低残渣食を継続する方が、再燃のリスクが低くなると考えられている。 潰瘍性大腸炎:腹痛、下痢、血便、下血などが重篤な場合には、腸管の安静を保つために絶食とし、中心静脈栄養法による栄養補給を行う。大腸が使用できる状態となれば、経腸栄養法を施行し、さらに状態が安定してきたら低脂肪・低残渣食に移行する。寛解期は、薬物療法が中心となり、食事は暴飲暴食を避ける必要はあるが制限を行う必要はない。 ー - - - - - - 暴飲暴食を避け、刺激の強い香辛料、コーヒー、炭酸飲料、アルコール類を控えめにする。腹部症状の有無をつねに意識し、異常を感じたら刺激に強い食品を避けるようにすることが重要である。絶食後に開始される低脂肪・低残渣食の内容は、クローン病の食事療法に準じる。 クローン病:経腸的に栄養補給が可能と判断されたら、中心静脈栄養法から成分栄養剤に切り替えていく。成分栄養剤は、経鼻経管栄養として投与する場合と経口摂取する場合がある。食事は、「エネルギー、タンパク質、脂質、食物繊維」を考慮して、一般的には低脂肪・低残渣食の5分がゆなどを1日1食から開始し、2食分は成分栄養剤で栄養補給する。炎症反応はが亢進しなければ、主食を全がゆにする。食事回数を増やすなどして成分栄養剤の投与量を減らしていく。寛解気に入っても成分栄養剤を併用した方が寛解状態を長く維持することができるといわれている。一方、在宅での成分栄養剤の経鼻経管投与は、患者が毎日帰宅後に自身で経鼻チューブを挿入し、自宅で(就寝中を含む)経腸栄養ポンプを用いて投与し、翌朝外出前に経鼻チューブを抜去する方法で行う。経口摂取は、経鼻チューブの挿入は不要だが、1日に必要量を摂取できなくなり、食事量が増加することで再燃させてしまうことも多い。 潰瘍性大腸炎:経腸的に栄養補給が可能と判断されたら、中心静脈栄養法から成分栄養剤に切り替えていく。成分栄養剤は、成分栄養剤、消化態栄養剤、不溶性植物繊維が含まれていない半消化態栄養剤を用いる。さらに状態が安定してきたら低脂肪・低残渣食に移行し、食事のみでの栄養補給へ移行する。寛解期には、⇒
【炎症性腸疾患に使われる栄養剤よび薬物(医薬品)について(3、4、5)】

潰瘍性大腸炎は、再燃を予防するために5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA製剤:ペンタサ®、アサコール®、リアルダ®、サラゾピリン®)の長期にわたっての服用が必要となる。腹痛や下痢などの症状がある活動期には、きちんと医師の指示どおりに服薬できるが、症状がない寛解期には長期間にわたって薬を服用し続けることは難しくなる。下のグラフに示すように、2年間の5-ASA製剤の服薬状況を調査した結果、指示どおりにきちんと服薬を守っていた患者さん(服薬遵守群)の約90%が寛解を維持できているが、服薬を守っていなかった患者さん(服薬非遵守群)では約40%と低く、6割の患者さんが再燃したことが報告されている。また、服薬を守れない理由として、飲み忘れ(50%)、錠数が多いこと30%)、薬の必要性を感じないこと(20%)が挙げられている。重要なことは、症状がない寛解期でも、服薬を遵守することで再燃を予防し、長期にわたって寛解を維持することができるということで、さらに、5-ASA製剤の服薬の継続は、潰瘍性大腸炎に合併する大腸癌発症のリスクを低下させることも報告されている。したがって服薬遵守は再燃予防だけでなく、大腸癌予防の観点からも重要である。

 また、5-ASA製剤によっては1日1回の服用で十分な効果が得られることが確認されている薬もあるので、確実に服用を継続するために、1日1回の服用を試してみるのもひとつの方法である。

[5-ASA製剤]

5-ASA5-アミノサリチル酸)製剤は、IBDの治療薬として古くから使われている薬で、クローン病でも第一選択薬として用いられているが、基本薬としての効果は潰瘍性大腸炎ほど期待できず、ほとんどの患者さんでは他の治療との併用が必要となる。薬剤の作用機序についてはいくつか考えられているが、腸内で局所的に働き、細胞に炎症を引き起こす原因となる活性酸素やロイコトリエンの生成を抑える。

サラゾスルファピリジンは、5-ASAとスルファピリジン(SP)の化合物で、服用すると、大腸の中の細菌により、5-ASAとスルファピリジン(SP)に分解されてから吸収される。有効成分である5-ASAが腹痛・下痢・血便などの症状を抑える。しかし、スルファピリジンの「アレルギー症状、発熱、男性不妊など」の副作用や薬剤の色素である橙色の着色(コンタクトレンズが着色したり、涙や尿に色がつく)が問題視されていたことから、それらの問題を解決すべくスルファピリジンを除き、有効成分の5-ASAのみを取り出した薬として開発されたのがメサラジンである。メサラジンを腸管局所で作用させるためには、胃や小腸で吸収されずに大腸まで届ける必要がある。これにはいくつかの方法があり、薬剤によって異なる。

5-ASA製剤は、活動期には腹痛・下痢・血便などの主症状を抑えることを目的に、寛解期には寛解持続を目的として使用する。約50~80%の活動期のIBD患者さんが、5-ASA製剤のみでの寛解導入が可能とされており、サラゾスルファピリジン、メサラジンのどちらでも同様の効果が得られる。しかし、潰瘍性大腸炎に比べるとクローン病は5-ASA製剤のみでの寛解導入が難しいケースもあり、その場合は他の薬剤も併用する。

薬理作用(4)としては、潰瘍性大腸炎やクローン病は炎症性腸疾患と呼ばれ、免疫異常により腸の粘膜細胞が攻撃され潰瘍をつくる慢性の病気で、腹痛、下痢、下血などの症状があらわれる。クローン病では腸以外の場所でも免疫異常がおこり、関節炎、目の炎症、肛門部病変などがあらわれる場合がある。炎症性腸疾患では免疫の異常により、炎症性細胞から放出される活性酸素や炎症反応などに深く関わるロイコトリエンという物質などが原因でおこるとされる。本剤は活性酸素の除去作用やロイコトリエンの生成抑制作用などにより、炎症性腸疾患の諸症状を改善する作用をあらわす。本剤の中でサラゾスルファピリジン(主な商品名:サラゾピリン)は体内で代謝され、スルファピリジンとメサラジン(5-アミノサリチル酸:5-ASA)に変換され、主にメサラジンが炎症を抑える成分となる。メサラジンを成分とする製剤で主に小腸から大腸にかけてメサラジンが放出されるように造られた製剤がペンタサとなる。また、メサラジンをより大腸で放出されるようにし、潰瘍性大腸炎治療により効果をあらわすように造られた製剤(pH依存型放出調節製剤)がアサコールとなる。なお、2016年11月に発売されたリアルダはメサラジンのフィルムコーティング錠で通常、1日1回の投与が可能な製剤となっている。この製剤は胃内及び小腸付近でのメサラジンの放出が抑制され、大腸付近に移行すると徐々(持続的)にメサラジンが放出されるよう工夫が施されている。

主な副作用や注意点としては、(1)消化器症状:下痢、腹痛、吐き気、腹部膨満などがあらわれる場合がある(2)発熱、頭痛など:発熱、頭痛、関節痛、倦怠感などがあらわれる場合がある(3)間質性肺炎:頻度は非常に稀である、息切れ・息苦しさ、空咳、発熱などがあらわれる場合がある このような症状がみられこれらの症状が急に出現したり、持続したりする場合は、医師や薬剤師に連絡する

サラゾピリン(一般名:サラゾスルファピリジン)
 最も古くから使用されている5-ASA製剤で、大腸内の細菌により、5-ASAとスルファピリジンに分解され、吸収される。体内で代謝を受けてメサラジンを放出する製剤で潰瘍性大腸炎などに使用する。剤形としては、錠剤と坐剤があり、用途などによって選択が可能である。本剤の成分(サラゾスルファピリジン)を利用した抗リウマチ薬(主な商品名:アザルフィジンEN)がある。

[製剤の化学構造と写真(3)]

ペンタサ(一般名:メサラジン)
 5-ASAのみでつくられた薬剤で、内服後、時間経過とともに徐々にメサラジンが放出されることで大腸に届く仕組みになっている。副作用が少ない一方で、直腸など遠位大腸までは薬の効き目が届きにくいため、直腸に炎症がある場合はサラゾピリンや他の5-ASA製剤の方が適している場合がある。メサラジンを主に小腸から大腸にかけて放出するように造られた製剤で、主に潰瘍性大腸炎、クローン病に使用する。剤形としては、錠剤、坐剤、注腸(薬剤を直腸内へ注入する製剤)、顆粒剤があり、用途などによって選択が可能である。

 [製剤の写真(3)]

アサコール

メサラジンを大腸に特化して放出されるように造られた製剤で、主に潰瘍性大腸炎に使用する。

 [製剤の写真(3)]

リアルダ

メサラジンを持続的に大腸全域に放出されるように造られた製剤で、1日1回の投与(通常「食後」に服用)が可能で、服薬回数などに対するメリットが期待できる。主に潰瘍性大腸炎に使用する。

 [製剤の写真(3)]

[ステロイド(副腎皮質ホルモン)]

ステロイドは、副腎で作られるホルモンの一種「糖質コルチコイド」の成分を合成してつくった薬剤である。非常に強力な炎症抑制効果があることから、IBDの特に中等症以上の治療で多く使用されている。通常、迅速に効果を発揮し、短期的には極めて効果が高い薬剤だが、IBDに対しては寛解維持効果はないので、無意味な「長期投与」や「短期間での繰り返し投与」は、副作用や合併症を招く原因になる。寛解導入後はできるだけ早い段階での中止を目指すが、無理な減量・中止は、体内のステロイドホルモンが不足している状態になり、頭痛、吐き気、血圧低下などの離脱症状が起こることがあるので、徐々に減量する。ステロイドについては他の薬剤に比べ、副作用や依存性などの知識を持っている患者さんが多いようで、そのため、なかには「怖い薬」と思っている人もいるのではないか。しかし、正しく服用すれば副作用も最小限に抑えられる。IBDの活動期の治療ではステロイドを凌ぐ治療法は見つかっていないとも言われているので、医師に処方されたらむやみに怖がるのではなく、不安なことや使用期間について相談するようにするとよい。ステロイドはジェネリック医薬品も合わせるとたくさんの種類がある。クローン病の治療では主にプレドニゾロン(一般名:プレドニン)、小腸下部および結腸近位部で放出するように設計された腸溶性徐放製剤のゼンタコート(一般名:ブデソニド)が使用されている。このお薬はステロイドとしての局所効果は強い反面、血中への移行が少なく、前述した副作用が軽減されることが知られている。小腸下部や右側結腸に主病変をもつ患者さんには有効性が高く、比較的安全なステロイド剤として欧米では第一選択薬として広く用いられている。

 [製剤の写真(3)]

[チオプリン製剤(免疫調節薬)]

チオプリン製剤は、免疫の過剰な働きを抑えて腸の炎症をしずめる効果のある薬剤で、クローン病の治療では、イムラン・アザニン(一般名:アザチオプリン)のほか、保険適用外だが、ロイケリン(一般名:6-メルカプトプリン)が使用されることもある。ステロイドを使用している患者さんの中には、減量していくに従って、落ち着いていたはずの症状がまた悪化してしまう方がいる。そのような状態を「ステロイド依存例」といい、チオプリン製剤は、そのような患者さんの体内で起こっている過剰な免疫反応を調節し、ステロイド依存から離脱するための一助となる。また、ステロイド導入後の寛解維持効果だけでなく、ステロイド減量効果もあることが証明されている。チオプリン製剤は「ステロイド漸減(徐々に用量を減らすこと)」や「ステロイド治療後の寛解維持」に最適な薬剤といえる。その反面、チオプリン製剤には「即効性」はなく、効果がハッキリとあらわれてくるまでに1~3か月程度かかるので、「少しも効果が感じられない」「自分には合わない薬なんだ」などと考えず、基本的には寛解維持を目的とした薬なので、主治医と相談しながら可能なら(ステロイド減量・中止などの目的に応じた)効果が出るのを待ちましょう。生物学的製剤導入例では早期から並行してチオプリン製剤を使用することで相乗的な効果が期待できることも知られている。このように寛解維持に効果が認められるが、日本人の場合、用量調節が難しい薬剤でもある。遺伝的に約1-2%の患者さんはほぼ100%の割合で高度の白血球減少や脱毛が起こることが分かっている。また、10-15%の患者さんは軽度から中等度の白血球減少や脱毛のリスクがある。こうした患者さんを特定する検査が2019年2月に保険適応となっているので、治療開始前に主治医ときちんと話し合うことが大切です。また、チオプリン製剤は免疫反応を抑える薬剤であるため、投与中は感染症にかかりやすくなるので、投与中は感染症が流行している時期の不要な外出は避け、マスクをつけることを忘れないようにしましょう。また、インフルエンザワクチンなどの予防接種を適切に受けることを心がけて、摂取する前に、必ず主治医に相談するようにして下さい。

 [製剤の写真(3)]

[生物学的製剤・バイオ医薬品(抗TNFα受容体拮抗薬、抗IL-12,23抗体)]

抗TNFα受容体拮抗薬は、炎症サイトカインの一種であるTNFαという物質の発生を阻害する生物学的製剤の薬剤である。TNFαは本来、腫瘍細胞を攻撃する物質ですが、クローン病の患者さんでは、TNFαが体内で過剰に産生され、炎症を引き起こすということが判明している。また、生物学的製剤は、化学合成で作られた従来の薬剤とは異なる「バイオ医薬品」で、バイオテクノロジー(生物工学)を活用して作られた医薬品で、従来の化学合成で作られた医薬品と異なり、細胞や微生物に培養させて作られている。遺伝子組換えや細胞融合などを活用したもので、その代表的なものとして免疫機能を応用した「抗体医薬品」があります。抗体医薬品は体の悪い部分にピンポイントで効くため、副作用のリスクが少ないという大きなメリットがあるが一方、ある分子を長期的に抑制することによる弊害も指摘されている。

クローン病では、レミケード(一般名:インフリキシマブ)ヒュミラ(一般名:アダリムマブ)、既存治療で効果が不十分あるいは栄養療法が無効な中等症~重症の患者さん、ステロイド依存性でかつチオプリン製剤不耐の患者さんなどに対して使用されます。

この抗TNFα受容体拮抗薬の他に、炎症を起こすサイトカインであるIL-12およびIL-23に対する抗体製剤のステラーラ(一般名:ウステキヌマブ)2017年から使用可能となった。TNFαと異なり、IL-12およびIL-23は炎症を起こすメカニズムのやや上流に位置していると考えられており、すなわち、IL-12およびIL-23を抑えることで結果的にその下流で存在するTNFα、IL-6、IL-17などの炎症性サイトカイン産生を抑制して効果を発揮する薬剤である。作用機序が異なるため、抗TNFα受容体拮抗薬の無効例や効果減弱例(最初は効いたものの、徐々に効果が弱くなってくる患者さんのことで、二次無効例と同義)への効果も認められている。一般的に効果の発現までに時間がかかることが指摘されているが、薬物に対するアレルギーや抗体産生が少なく、効果減弱例は抗TNFα受容体拮抗薬より少ないと考えられている。免疫を抑制する薬剤なので、感染症および肺炎や結核には十分な注意が必要である。感染していても症状が出ず、本人も気付いてないというケースがあるので、治療を開始する前には感染症の検査を行い、感染症が見つかった場合はまずその治療を行い、完治を待ってから投与を開始する。特に抗TNFα受容体拮抗薬使用者では結核菌への抵抗力が下がるので、投与前に胸部X線検査や結核菌検査(ツベルクリン反応、抗原特異的インターフェロン-γ遊離検査など)が必要である。検査内容や結果は主治医に相談すること。また、B型肝炎ウイルスに感染している患者さんの場合、ウイルスの再活性化によるB型肝炎の発症リスクが考慮される。こうしたリスクの発見や軽減のための検査や治療も必要となるので、投与経験豊富な専門施設で受けることが大切である。

 [製剤の写真(3)]


【免疫抑制剤(タクロリムス、シクロスポリン)(3)】 炎症を抑えるとともに、即効性があるので潰瘍性大腸炎ではステロイド治療で効果が得られない患者さんの寛解導入で使用される。 タクロリムス経口剤:商品名プログラフ®カプセル0.5mg、プログラフ®カプセル1mgなど  [製剤の写真(3)]


シクロスポリン注射剤:商品名サンディミュン®注射液

特徴:強力なステロイド治療でも効果が得られない場合に、シクロスポリンを持続的に点滴投与し、免疫反応を抑制することで手術を回避できることが明らかになり、専門施設で使用されることがある。

しかし、一度この薬で症状が抑えられても、数年後には手術を受けるケースも多く、さらに潰瘍性大腸炎の治療として保険が認められていないことから、その使用は限られる。

【抗α4β7インテグリン抗体製剤(3)

潰瘍性大腸炎の患者さんではリンパ球上のたんぱく質であるα4β7インテグリンという物質の働きにより、免疫にかかわるリンパ球が過剰に大腸の組織に侵入し炎症を引き起こしていると考えられている。このα4β7インテグリンの作用を抑えるのが抗α4β7インテグリン抗体製剤である。

 [製剤の写真(3)]

【ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤(3)

潰瘍性大腸炎の患者さんでは炎症を引き起こす物質(サイトカインと呼ばれている)が過剰に作られていると考えられている。この薬は、細胞内のヤヌスキナーゼ(JAK)と呼ばれる酵素を阻害することでサイトカイン作用を抑える。

 [製剤の写真(3)]

【血球成分除去療法(GMA)(3)

国内で開発された治療法で、血液を腕の静脈から体外循環させて、特殊な筒に血液を通過させることにより、特定の血液成分(主に血球成分)を除去することで、効果を発揮する治療法である。

 血球成分除去療法としては、顆粒球・単球を除去するアダカラム®(GMA)がある。

[血球成分除去療法]

商品名アダカラム®(GMA)

特徴:基本的には重症例やステロイド治療で十分な効果が得られない場合に使用される。

方法:中等症では計10回、重症・劇症では計11回まで行う。また、早期に効果を得るため、1週間に2回など、短期間で実施する方法も行われる。

※この治療法は血液を固まりにくくする薬と一緒に使用する。

副作用:主な副作用:吐き気、血圧低下、発熱など

* ステロイド経口剤・注射剤と比べれば、副作用が少なく、比較的安全な治療法である。

[その他の薬剤]

クローン病の内科的治療では、上記の薬剤のほか、以下の薬剤を使用する場合がある。直接の治療効果が証明されていないものや薬価承認されていない治療が含まれるので、個人でのむやみな使用は危険であり、副作用も少なからず報告されており、主治医のきちんとした説明のもと使用するようにしよう。

抗菌薬(シプロフロキサシン・クラリスロマイシン・メトロニダゾールなど)
プロバイオティクス(有胞子性乳酸菌・ビフィズス菌・カゼイ菌など)
漢方薬(大建中湯など)
中心静脈栄養 :経腸成分栄養(エレンタール・エネーボ・ラコールNFなど)

■経腸栄養療法:第一選択の薬剤は、成分栄養剤(エレンタール)または消化態栄養剤(ツインラインなど)で、独特の臭いや味で摂取が困難な場合は、比較的飲みやすいとされる半消化態経腸栄養剤(ラコールNFエンシュア・リキッド)を使用する。これらは、ほとんど消化を必要とせず、腸からの吸収が容易である。経腸栄養療法は副作用が少なく、寛解導入・寛解維持の両面での効果が期待されている。小腸に狭窄があり、食べたものが詰まりやすい患者さん、小腸病変が広範で低栄養状態になりやすい患者さんを中心に、日本国内で今も広く行われているクローン病の内科治療である。臭いや味が苦手などの理由で経口摂取が難しい場合は、在宅経管経腸栄養療法(HEN:home enteral nutrition)という、経鼻チューブを用いて鼻から摂取する方法もある。チューブを自己挿入することができるようになれば、比較的大量の栄養剤を長時間かけて投与することが可能となるため、入院を回避したり、再燃時に自宅である程度疾患活動性のコントロールが可能となる。

■栄養剤の特徴
成分栄養剤(エレンタール):ほとんど消化を必要としない5大栄養素をバランスよく配合した完全栄養組成物で、低残渣性・易吸収性の経腸的高カロリー栄養剤。脂肪の含有量が非常に少ないのも大きな特徴である。独特の臭いと味があるが、専用のフレーバーがあるほか、ゼリーやムースにして摂取することもできるので、自分が飲みやすいように工夫している人も多いようである。

消化態栄養剤(ツインライン):低分子ペプチド(ジペプチド、トリペプチド)とアミノ酸で構成されている栄養剤で、経口摂取も可能だが、浸透圧が高く独特の味なので、経鼻チューブを鼻に通すなどして体内に直接投与する「経管栄養療法」の方が適している。

半消化態経腸栄養剤(ラコールNF、エンシュア・リキッド、エネーボなど):主にタンパク質で構成される栄養剤で、成分栄養剤、消化態栄養剤に比べて飲みやすく、通常の食事に近いのが特徴である。経口摂取に向いているが、脂質が必要量含まれるうえ、消化も必要である。

平成29年度潰瘍性大腸炎治療指針(内科)をもとにIBDプラス編集部が作成 監修:福岡大学筑紫病院炎症性腸疾患(IBD)センター長 平井郁仁 先生

参考資料

  • 新看護学3 専門基礎3 食生活と栄養 ㈱医学書院 2017.2.1 p.247-249

(2)八野芳已、Q&Aでわかる病態鵜別栄養管理、㈱医薬ジャーナル社、2008年5月20日、p.69-74

(3)「令和元年度において、厚生労働科学研究費補助(難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業))を受け、実施した研究の成果」難治性炎症性腸管障害に関する調査研究(鈴木班)

潰瘍性大腸炎の皆さんへ知っておきたい治療に必要な基礎知識第4 版2020年3月改訂

(4)クローン病の治療法-薬を使った内科的治療から手術による外科 …

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