小野薬品の相良暁代表取締役会長CEOは医薬通信社の取材に応じ、2028年米国を契機とするオプジーボの特許切れを見据えた欧米での製品戦略について言及。「デサイフェラ買収による製品・新薬候補も含めたシナリオをしっかりと実現していき、オプジーボの特許切れ(米国:2028年、欧州:2030年、国内:2031年)マイナスなどをカバーし、グローバル展開によって大きく成長していきたい」と力強く語った。
また、15年半の代表取締役社長時代を振り返り、「嬉しい時も苦しい時もあったが、遣り甲斐が大きかった。社長として最後に携わったデサイフェラの買収は、是非成功し、軌道に乗せたい」と明言。さらに、「今後も小野薬品は新薬を出し続け、様々な部門でチャレンジして楽しい仕事ができるワクワクする会社となって持続的に成長してほしい」と期待を寄せた。
小野薬品の売上収益(2024年3月期5027億円)の半分以上を占めるオプジーボ関連収入は、2026年にメルク社等からのロイヤリティ収入が切れ、米国では2028年、欧州では2030年に特許切れし、それに応じたBMS社からのロイヤリティ収入も段階的に減少していく。同社の業績に最も影響を与える日本での特許切れも2031年に迎える。こうした中、相良氏は、「メルクやロシュからのロイヤリティ料率は、2024年よりこれまでの世界の売上高の1.625%から0.625%に低下するため、オプジーボクリフの影響は今年から徐々に出始めており、素早く手を打っていく必要がある」と強調する。
デサイフェラ買収によるキンロック、ビムセルチニブ等に期待
その手立てとして、まず、2026年に米国で「ベレキシブル」(中枢神経系原発リンパ腫治療薬)、その後に上手くいけば「イトリズマブ」(急性移植片対宿主病)の上市を予定している。
この2製品に加えて、デサイフェラの買収(本年6月11日にTOB成立)によって獲得した「キンロック」(消化管間質腫瘍[GIST]治療薬)と「ビムセルチニブ」(腱滑膜巨細胞種[TGCT]、慢性移植片対宿主病[GVHD]治療薬)への期待も大きい。
KIT阻害剤である「キンロック」は、GISTの4次治療の薬剤として米国、欧州及び中国を含む40ヶ国以上ですでに販売されており、2023年の売上高は約250億円に上る。数年後にはGISTの2次治療への効能追加が予定されており、「600億円程度の製品に拡大する」見通しにある。
一方、CSF-1R阻害剤である「ビムセルチニブ」は、TGCTのP3試験(MOTION
study)において、主要評価項目及びその他副次的評価項目を統計学的有意に達成しており、米国で2024年第2四半期、欧州で2024年第3四半期での申請を予定している。cGVHDを対象とした臨床試験はP2段階にあり、「5年後の効能追加を予定している」
米国でのTGCT市場は約1000億円、cGVHD市場は1500億円と推定され、「ビムセルチニブは、オプジーボの日本の特許が切れる2031年までに2つの効能・効果が出揃う」 TGCTとcGVHDともに「市場の半分のシェア獲得」を目標としており、「キンロックと合わせると1800億円程度の売上を見込んでいる」
さらに、オプジーボの製剤的な特許切れ対策にも余念がない。「オプジーボと抗LAG-3抗体レラトリマブの配合剤であるオプデュアラグが欧米で上市されている。オプジーボの皮下注製剤も、米国で申請中、欧州で申請受理されており、日本でもP1試験を実施している」と説明する。
その上で、「現在、ロイヤリティを含むオプジーボの売上高は約3000億円であるが、配合剤や皮下注製剤、そして再審査期間10年のいくつかの稀少疾患の効能追加などにより、2031年以降も1000億円程度の売上が残ればと試算している」と話す。
従って、オプジーボクリフで失われる2000億円分は、「デサイフェラ買収で獲得したキンロック、ビムセルチニブでほぼカバーし、そこに米国で上市するベレキシブルとイトリズマブが加わる。さらに、国内でセノバメイト(抗てんかん薬、P3)を上市することで何とか埋めたい」と訴求する。セノバメイトは、発売当初の効能・効果(抗てんかん部分発作)で100億円の売上高を見込んでいる。
とはいえ、「オプジーボの2000億円分のマイナスをプラスアルファで補うことができても、2型糖尿病治療薬(SGLT2阻害薬、フォシーガ)の特許切れも控えている。フォシーガの約800億円分をカバーしてさらに成長しなければならない」と力説する相良氏。そのためには、「現在P1、P2段階に7~8品目ある医薬品候補の製品化に尽力するとともに、引き続き導入品の評価も積極的に行っている」と明かす。
2031年のオプジーボ国内特許切れを焦点としたパイプラインでは4化合物候補に期待
2031年の国内でのオプジーボの特許切れ間に合うかどうかを焦点としたパイプラインでは、まず、T細胞リンパ腫を対象に国内・米国で開発を進めている「ONO-4685」(PD1×CD3二重特異性抗体、日本P1、自社)、非ホジキンリンパ腫、慢性リンパ性白血病を対象に米国で開発を進めている「ONO-7018」(MALT1阻害薬、米国P1、コーディア社から導入)がある。
「ONO-4685」は、皮膚T細胞性リンパ腫(CTCL)の二次治療薬として2027年、末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)の二次治療薬として2028年に米国での上市を予定しており、「一次治療を取得(2035年~36年頃)すれば大型製品に成長する」
「ONO-7018」は、「非ホジキンリンパ腫は大きな市場規模ではないが、上市後3~4年先の慢性リンパ性白血病の適応症追加で大きく拡大する」
「ONO-4578」(プロスタグランジン受容体拮抗薬、日韓台P2)はオプジーボとの併用で2031年以降に胃がん、大腸がんで承認取得を見込んでおり、「グローバルな自社販売によりオプジーボ並み(3000億円規模)のブロックバスターを目指す」
2031年~32年に米国での承認取得を見込んでいる「ONO-2910」(化学療法誘発末梢神経障害、日本P2、自社)も見逃せない。がんの化学療法によって誘発されるしびれや痛みを予防する新薬で、「2031~32年に承認取得、2035年頃に500~600億円の売上を見込んでいる」
今年国内でのP1が終了し、2032年以降の上市を目指している「ONO-1110」(内因性カンナビノイド制御作用、疼痛)への期待も大きい。これまでの薬剤にはない全く新しい作用機序を有する同剤は、抗うつ、不安などCNS分野への適応拡大を可能としており、「市場規模は非常に大きい」
相良氏は、「2031年のオプジーボの国内特許切れを上手くカバーし、その後に期待の化合物が順調に上市されれば、大きく成長できる。このシナリオを必ず実現したい」と言い切る。
小野薬品では、2031年に研究開発費2000億円を掲げており、売上高1兆円規模を視野に入れる。
さらなる企業買収、ライセンスイン実施を明言
さらなる企業買収、提携については、「あり得る」と明言した上で、「ただし、デサイフェラに約3800億円投資したので、この規模の買収を立て続けに行うことは考えにくい。ライセンスインも実施し、良い化合物を導入したい」と話す。
相良氏は、デサイフェラを買収相手として選択した3つの理由についても説明する。一つ目は、既にキンロックを上市しており、ビムセルチニブの米国申請を準備していた(現在は申請中)ことが挙げられる。この2品目以外にも基礎研究段階で3つの化合物を有している。「2つの製品(製品候補)と3つの医薬品候補化合物を有する非常に優秀なベンチャー企業であった」と評価する。
2つ目は、米国で開発、承認申請して承認を取り、アウトソーシングで製造して自ら販売する経験を持っており、「米国進出を目指す小野薬品にとってプラスになる」
3つ目は、5つの新薬候補を生み出すキナーゼ阻害薬を専門とした研究所があり、小野薬品の創薬研究に寄与する可能性が高かった」これらの理由に買収費用等を加味して、デサイフェラに決定した。
遣り甲斐あった社長時代
小野薬品は持続的に成長する会社に
相良氏は、本年4月1日、代表取締役社長から代表取締役会長CEOに就任した。15年半の社長時代を振り返り、「2008年9月に社長に就任した。社長が短期間で交代していた不安定な時期で、私より上の人達が少なく急遽お鉢が回って来た」と語る。当時の小野薬品は、3年後に長期収載品売上比率が90%となり、研究所からは新薬候補が出てこない状況にあり、「えらいこっちゃ」の船出となった。
社長就任直後からバタバタとライセンス活動に勤しみ、「カイプロリス」(多発性骨髄腫)を皮切りに、「グラクティブ」(2型糖尿病)、「エドルミズ」(がん悪液質)、「オレンシア」(関節リウマチ)、「パーサビブ」(血液透析下の二次性副甲状腺機能亢進症)などを導入した。2014年には、大型製品の「フォシーガ」(SGLT-2、2型糖尿病)もライセンスインにも成功した。
現在の主力品のうち、オプジーボとベレキシブル(中枢神経系原発リンパ腫)以外は導入品で、売上収益5000億円は「3000億円がオプジーボ、2000億円はその時に取ってきた導入品で構成されている」
相良氏は、こうしたライセンスインに成功する秘訣として「スピード」と「熱意」を挙げる。
スピードは、中堅医薬品企業ならではの特徴で、ライセンス部門が社長とやり取りすれば、大手企業のように会議を重ねることなく素早く判断できる。熱意と誠意は、「契約締結時ではなく、相手との話が半分まとまり掛けた段階で社長自らも先方まで出向く
加えて、熱意には、経済条件も含まれる。当時の小野薬品は、パイプラインは乏しかったが、内部留保は大きかった。「ただ相手に会いに行くだけではなく、経済条件も持って行った」と赤裸々に明かす。
2014年には、待望の自社製品オプジーボが上市される。世界初のPD-1阻害薬のがん免疫療法剤として、その画期的な作用機序が注目された。オプジーボは、まず、メラノーマを効能・効果に上市されたが「成功したものの日本では30億円程度しか売れない。どれだけ拡大するか判らない」というスタートであった。
2015年12月に非小細胞肺がんの適応を取得して、「初めて大きくなる」との手ごたえを掴んだ。「肺がんで拡大し、他の適応追加もどんどん増やして行った」
だが、2016年8月、肺がんの一次治療の適応拡大に失敗し、大きく株価を下げた。同適応拡大に成功した競合品のキイトルーダとの売上差が開いた。2020年11月に肺がんの一次治療(併用療法)の適応拡大を取得、加えて2020年12月に胃がん一次治療の適応を取得してキイトルーダを抜き返した。
キイトルーダとは抜きつ抜かれつの状況を繰り返しており、「今また2位だが、尿路上皮がんや肝臓がんの一次治療、肝臓がんの術後アジュバントで巻き返しを図りたい」と意気込む。
その間、17年2月には、肺がんの適応拡大に伴う大幅な売上拡大によって国は当時2年置きに行われていた薬価改定の時期を待たず緊急の薬価引き下げが実施された。オプジーボの薬価は、半額の約36万円/100mgとなり薬業界において波紋を呼んだ。
その後も、オプジーボ自身の売り上げ増加や、市場拡大再算定の「共連れルール」を要因とした薬価引き下げが続き、現在の薬価は発売当初の1/5となった。
2016年10月には、メルクに対してPD-1抗体の特許権を巡る訴訟を起こし、2017年1月、「キイトルーダの全世界売上に応じたロイヤルティを2026年まで支払い、加えて6億2500万ドルの頭金を支払う」条件で和解した。
2020年6月には、オプジーボの共同研究を行い、その研究でノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑京大特別教授によるオプジーボの特許使用料を巡っての訴訟があり、2021年に和解が成立した。
相良氏は、「オプジーボは、小野薬品の業績アップや遣り甲斐、評価などのプラス要因もたくさん運んでくれた。その一方で、薬価や特許争い、本庶先生との係争などの問題もあった」と回顧する。その上で、「社長時代は良いこともあったし、苦労もした。トータル的にみると遣り甲斐があった。最後は、デサイフェラの買収にも携わった。この買収が寄与して成長軌道に乗せたい」と強調する。
今後の小野薬品については、「早くグローバル展開して、研究開発に潤沢な資金を投資し革新的な新製品を出し続け患者さんに貢献したい。様々な部門でチャレンジして楽しい仕事ができるワクワクする会社となり、持続的に成長する会社になる」と抱負を述べた。