ドクタートラストでは、企業の産業保健活動についてアンケート調査を行い、産業保健活動を担う衛生管理者や人事総務担当者、産業医、保健師などの175人から回答を得た。
その結果、全体のおよそ6割の企業が、ストレスチェックにおける集団分析を活用した職場環境改善を実施していることが判った。同結果は、昨今の健康経営に対する意識の高まりを反映している。
また、産業保健活動実施の有無にかかわらず、1on1ミーティングを実施している企業の割合が6割を超えていることも明らかになっている。調査概要および結果ハイライト、アンケート調査の詳細、コンサルタントによる解説は、次の通り。
【調査概要】
◆期間:2023年11月28日~2024年1月31日
◆地域:全国
◆回答数:175人
◆方法:ドクタートラストメールマガジン「ドクタートラストニュース」にてアンケートフォームURLを送信
【結果ハイライト】
・ およそ6割の企業が職場環境改善への取り組みを実施
・ 職場環境改善を実施しない主な理由は「経営層の意識が低い」「職場環境改善の実施方法が分からない」
・ 6割超の企業が1on1ミーティングを実施
【アンケート結果の詳細】
1、 およそ6割の企業がストレスチェックの集団分析を活用した職場環境改善を実施
図1は「ストレスチェックにおける集団分析を活用した職場環境改善の実施状況」の設問に対する回答結果である。
ストレスチェックの集団分析結果を活用した職場環境改善は、努力義務にとどまっているが、メンタルヘルス不調の未然予防だけでなく生産性を向上させる効果もあり、実施が望ましいとされている。
今回のアンケートでは、回答者全体の約6割となる103社がストレスチェックの集団分析結果を活用した職場環境改善を実施しており、多くの企業が労働環境に配慮した取り組みを行っていることがわかった。
また、「どんな職場環境改善施策を実施しているか」についても回答を得ることができた。その中でも多くの企業が取り組んでいた職場環境改善施策を紹介したい。
回答内容(一部抜粋)
<職場環境改善の具体的な取り組み>
・ 産業医面談の勧奨、地域の産業保健センターの面談を斡旋
・ 部署内での話し合いの場を設ける
・ 衛生委員会やアンケートで意見の吸い上げを行う
・ 管理職への研修やフィードバックを実施する
・ 1on1ミーティングの導入
そのほかにも、時短勤務の導入や有給取得の奨励、産業医による講話の実施などを挙げる企業もあった。
2、企業が職場環境改善を実施しない主な理由は「経営層の意識が低い」「職場環境改善の実施方法が分からない」
全体の約6割が集団分析を利用した職場環境改善を実施している一方で、実施していない企業も62社(従業員50人未満の企業は除く)あった。
これらの企業に自由記入形式で「職場環境改善を実施しない理由」を答えてもらったうち、特に多かったものを図2で紹介している。
最も多かった回答が企業側(経営層)の意識の低さへの指摘である。社会全体として「健康経営」の意識が高まりつつあるものの、いまだ浸透しきっていない現状がうかがえる。
また、「職場環境改善の実施方法が分からない」「ストレスチェック結果から改善点を見つけられない」など、ストレスチェックや集団分析の活用方法に苦慮している企業も散見された。
3、全体の6割を超える企業が1on1ミーティングを実施
前述の、職場環境改善の具体的な取り組みを問う設問にも「1on1ミーティングの導入」という回答があることからも判るとおり、産業保健活動の一環として1on1ミーティングを導入する企業が増えてきている。
図3は「定期的な1on1ミーティングの実施状況」の設問に対する回答結果を集計したものである。
「実施している」「部署ごとに異なる」「管理職のみ実施」を合わせた割合は63%(89社)であり、全体の6割を超える企業が定期的な1on1ミーティングを実施していることが判った。
【コンサルタントによる解説】
千葉晶子氏(ドクタートラストストレスチェック研究所 コンサルタント)
1、 職場環境改善の重要性
職場環境の改善は、メンタルヘルス不調を未然防止するだけでなく、従業員一人ひとりの持っている能力を最大限に引き出し、社内全体の生産性向上につながる。また、近年は労働人口の減少により、優秀な人材の確保が難しくなっているため、労働環境を整備し、「働きやすさ」を社内外へ発信することの重要性は日々高まっていると言えるだろう。
近年、企業さまから「集団分析結果を受け取ったが、どう活用すればよいのかわからない」という声が多く届いている。まずは、結果を適切に読み解き、経営層や管理職などへストレスチェックの結果をしっかりと説明し、現状を把握することが重要である。
ストレスチェックは。高ストレス者を見つけるだけでなく、疾病休業が起こるリスクや、従業員の心理的な負担を軽減する。また、併せて集団分析を実施することで、部署や年代別のストレス状況や従業員の満足度状況など、職場環境改善のヒントを得ることができる。
2. 1on1ミーティングの有用性とは
1on1ミーティングは、業務の進捗確認や従業員の成長促進・支援、上司と部下の信頼関係を深める目的があり、近年、導入が広がっている。上司と部下の信頼関係構築には普段のコミュニケーションが必要不可欠であるが、定期的な1on1ミーティングは、部下が悩みを相談できる機会にもなる。こうした上司のサポートはストレスを緩衝する要因になり、メンタルヘルス不調を防止する。
1on1ミーティングの導入を検討している企業は、上司と部下のコミュニケーション手段の一つとして活用しては如何だろう。また、すでに実施している企業も、実施の目的や方法の見直しを行うことで、より高い職場環境改善効果が期待できる。