‟患者力”で自分らしく生きるために治療を利用 武田薬品が「がん医療とケア」でシンポジウム

 武田薬品は22日、「これからのがん医療とケアvol.5~納得した治療を選び、向き合うために~」オンラインシンポジウムを開催した。
 シンポジウムでは、がん患者体験を活かしてピアサポート活動を展開する鈴木牧子氏(がんピアネットふくしま理事長)が「がん治療中によくある患者の不安〜自身の治療体験と患者支援の経験より〜」、東光久奈良県総合医療センター総合診療科部長・臨床研修支援室室長が「納得した治療を選び、向き合うために~高めよう『がん患者力』~」をテーマに講演。
 講演終了後には、‟キャンサージャーニー”とは、がんと闘うのではなく、旅をしていくことを意味し、がん治療においては、このキャンサージャーニーの中で自分のリーダーシップを持つ ‟患者力”によって「自分らしく生きるために治療を利用する」という考え方の重要性が改めて訴求された。

鈴木氏

 鈴木氏は、2003年8月に卵巣がんⅢ期C手術(抗がん剤)を受けて5か月入院、退院後5クールの追加抗がん剤治療(その都度3週間程度の入院)経験を持つ。その頃、一番つらかったのは、「未来が見えない暗闇、負のスパイラルに陥りそうな心、廻りからの興味本位な声かけ」であった。
 がん患者や自家族の持つ痛みには、「就労」、「親の介護、子育て」、「治療費の払い」、「Stigma(がん患者と言う烙印)」、「死を身近に感じることからの恐怖心・絶望感」などが挙げられる。Stigma(烙印)には、がんの家系(子供にうつる)、抗がん剤への間違った理解、遺伝子医療の間違った解釈などがある。
 こうした中、がんピアサロンでは、「仲間の話からヒントを得て心療内科で相談した結果、‟自分のイライラはうつ”だと分かり薬の処方で楽になった」、「家族の立場の参加者とも思いを共有できた」、「治療中、身体の不調に敏感になっていたが、仲間の話を聞いて気にし過ぎと気付いた」などの多くの好事例が報告されていることが紹介された。
 鈴木氏は、「がんピアサロンは、‟自分の気持ちを話せる場所が欲しい、話せる体験者に合いたい”といったがん患者の思いを満たし、色々な観点からの悩み解決をアシストする重要な役割を担っている」と訴えかけた。

東氏

 一方、東氏は、まず、キャンサージャーニーに言及し、「がんと診断され、突如地図もなく日程も判らないキャンサージャーニーが始まる。後戻りできないたくさんの分かれ道が連続し、選択を迫られる。そして、しばしば‟心”が取り残される」と指摘。その上で、「キャンサージャーニーは、がんと闘うのではなく、がんと旅をすることである」と強調した。
 患者力については、「自分の病気を医療者任せにせず、自分事として受け止め、色々な知識を習得し、医療者と十分なコミュニケーションを通じて信頼関係を築き、人生を前向きに生きようとする患者の姿勢である。患者力は、常に一定ではなく、その人の置かれている状況により上がったり下がったりする」と解説。
 患者力が低ければ、「質問しない、できない」、「自分の病気のことを知らない、知ろうとしない」、「ヘルステラシーが低い」、「おまかせ」などの傾向が強く、「質の低い医療、医療過誤に一因となり、がん医療のネガティブキャンペーンの助長に繋がる」との考えを示した。
 治療は病気への向き合い方の一部であり、病気は人生の一部である。治療目標は、「人生の目標」の中にある。患者力は、自分の人生のリーダーシップを持つことであり、思いを伝えるには準備が必要である。「言えることによって心が癒える」。医療従事者との対話は、‟意味の共有”にあり、医療従事者の共感的な態度が患者の行動変容に繋がる。
 医療従事者のなすべき事項として、「決断を急がせない」、「急がせる態度を取らない」、「コンピュータをいじらない」、「同伴者を連れることを推奨」、「質問を予め準備してもらう」、「別時間を設定」が重要ポイントとなる。
 東氏は医療従事者に対し、「医療従事者の共感的な態度と患者の行動変容の相関を十分意識してこれからも診療する必要がある」と明言。がん患者には「自分の学び、優先順位を付けて明日以降の生活(キャンサージャー)に繋げてほしい。そのためには、自分の人生を振り返ってみるのも良い」とアドバイスを贈った。

左から 池内利行氏 (武田薬品ペイシェントアドボカシー&コミニュケーション部スタッフ)、東氏、鈴木氏、川上祥子氏(がん情報サイト「オンコロ」メディカル・プランニング・マネージャー)、馬目亜紀子氏( 武田薬品同部スタッフ )


    

タイトルとURLをコピーしました