4年前の大阪市内における同調査では回答者の3.3%がLGBTAのいずれかに該当
早稲田大学教育・総合科学学術院の山内昌和教授、国立社会保障・人口問題研究所人口動向研究部の釜野さおり室長らの研究グループは、2月1日より、無作為に選んだ全国の18~69歳の1万8000人を対象に「家族と性と多様性にかんする全国アンケート」を開始している。
この調査で得られる無作為抽出の量的データを用いて、多様な性的指向や性自認のあり方、異性・同性との交際や結婚経験などが、人びとの心身の健康、経済状況、居住地の移動経験や希望、子どもをもつ経験や希望、親との関係などの生活実態や意識と、どのように関連しているのかを明らかにする。
これまでの研究でレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、アセクシュアル(LGBTA)を含む性的マイノリティが日本社会で直面する課題については、性的マイノリティを対象にした量的調査や、聞き取り調査などを通じて明らかにされつつある。
だが、日本における性的マイノリティの割合の推定や、性的マイノリティと、そうでない人との生活実態や意識を比較することが可能な調査研究は限られていた。
そこで、山内氏らの研究チームでは、2019年1~2月にかけて、大阪市で回答者を住民基本台帳から無作為に抽出した調査(http://www.osaka-chosa.jp/)を実施し、大阪市民の性的指向と性自認のあり方の分布を示した。
その結果、回答者のうち3.3%がLGBTAのいずれかに該当することが明らかになった(https://osaka-chosa.jp/files/preliminary_results.pdf)。
また、性的マイノリティとそれ以外の人たちについて、精神的健康の状態を統計的に比較した。たとえば、異性愛者でシスジェンダーの人に比べ、トランスジェンダーやゲイ・レズビアン・バイセクシュアルの人びとは、深刻な心理的苦痛を感じている可能性が高く(図1、図2)、また、自殺企図・自殺未遂割合が高い(図3、図4)ことがわかった。(https://www.ipss.go.jp/projects/j/SOGI/*20200111セクマイ医療福祉教育パネル.pdf)。
ただし、2019年の調査は大阪市民対象の調査であったため、日本全体については、まだわかっていない。そこで、全国に住む18~69歳の1万8000人を対象にアンケート調査を実施し、多様な性的指向や性自認のあり方、異性・同性との交際や結婚経験などと人びとの生活実態や意識との関連について検討することになった。
同調査は、全国で無作為に抽出された人びとに、恋愛的惹かれ、性的惹かれ、セックスの相手の性別、性的指向アイデンティティ、交際・同棲・結婚経験など性や家族に関して広くたずねているため、現在の日本における多様な性や家族の状況を描くことができる。
性的指向や性自認のあり方は、年齢や、男女という性別について言われてきたのと同様に、人びとの生活のありとあらゆる側面に関連している可能性がある。従って、これまでの多くの調査で性別や年齢をたずねてきたように、国、自治体、学術グループが主体となる調査に、性的指向や性自認のあり方を基本属性の1つとして含める必要があると考えられる。
この調査には、回答者の家族や性に関しての設問が多く含まれるが、これら以外の問いは、いわゆる一般的な調査でたずねられているようなものである。これまで、性的指向や性自認のあり方をたずねる問いを調査に含めることは、控えるべきであるとされてきた。
センシティブな事柄であり、また日本では性的指向や性自認のあり方についてたずねられる機会も少なく、特に一般的な調査においては、これらの項目を含めても回答者が適切に回答できないのではないかという懸念があったからだ。
だが、この調査の実施を通じて、誰もが対象となりうる一般的な調査において、性的指向や性自認のあり方をたずねる質問を含めても問題ないということを示すことができる。
また、結婚や交際の経験と希望、子どもをもった経験や希望、居住地移動の経験と希望など、人口学的な事項などを調べるため、これまで注目されてこなかった領域においての性的指向や性自認のあり方に関わる施策につながる差異や格差に関するデータ提供できる。