銘椿 69年ぶりの里帰り

武田薬品の京都薬用植物園で保全していた京都 宝鏡寺の銘椿「九重」を69年ぶりに里帰りとして奉納する献納式が5日、同寺で開催された。奉納された「九重」の苗木は、田中惠厚宝鏡寺門跡と野崎香樹武田薬品京都薬用植物園園長によって本堂東側の庭に植樹され、69年振りの里帰りを果たした。「九重」は、花は白色地に紅色や淡紅色の縦絞りが入り、紅色花や覆輪の花が咲く椿であり、開花初期には内弁が開かず、宝珠状になる「宝珠咲き」の特色のある良花である。

京都薬用植物園は、武田薬品の「生物多様性を守り未来に繋ぐ」という理念の下、“守る”、“つなぐ”、“伝える”の3つのアクションで植物遺伝子を保存している。椿については、現在、寺社ゆかりの銘椿が「九重」を始め27品種、合計で505品種を保存している。
「九重」は、後水尾天皇(1596年-1680年)が命名し、寵愛していた銘椿で、後水尾天皇の二人の内親王が宝鏡寺の門跡であった縁で同寺に植樹された。宝鏡寺は、「百々御所」とも呼ばれる格式高い尼門跡寺院で、たくさんの皇女ゆかりの人形を所蔵していることから「人形の寺」として親しまれている。
その宝鏡寺で生育している「村娘」「月光」「玉兎」の名椿は代々継承されているものの、「九重」については、昨年4月、生育不明であることが判明したため武田薬品で保全していた苗を返納し、宝鏡寺内にて復元する運びとなった。今回献納された苗木に付いているつぼみは、4月上旬から中旬にかけて開花する見込みであるが、本格的な花が咲くのは2~3年後になる。
献納式では、田中宝宝寺門跡が、「後水尾天皇ゆかりの九重は、先々代の門跡が武田薬品京都薬用植物園に預けて増やして貰っていた」と振り返り、「その後、69年の間に当寺で生育不明になっていたのが判り寂しい思いをしていたが、苗を返納していただくことになり大変感謝している」とあいさつ。さらに、「毎年たくさんの花を付けて貰えるように大事に育てていきたい」と抱負を述べた。
続いて、野崎京都薬用植物園園長が、「当植物園と椿の出会いは今から約70年前に当時の社長の6代目武田長兵衛がハワイの友人から日本に自生している椿を求められたことが切っ掛けになった」と紹介した。その時、武田長兵衛は、日本の植物を未来に残す大切さを強く感じて、宝鏡寺の原木が枯れてしまったときに備え1957年に4品種の銘椿の木を預かった。以来、武田薬品京都薬用植物園では、約70年間その苗木を守り続けてきた。
「本日、九重の苗木を古里である宝鏡寺にお返しできるのは単なる植樹ではないと考えている。歴史や文化を未来に繋ぐという正に生物多様性の保存そのものであると考えている」と強調する野崎氏。その上で、「当植物園の代々の管理者は、宝鏡寺の原木と同じ遺伝子を持った名椿を絶やしてはならないという責任を強く感じて保存に携わってきた。献納した九重は、宝鏡寺の美しい庭をさらに彩ってくれる存在になるものと期待している」と訴えかけた。
69年前に京都薬用植物園で預かった銘椿はそのまま残っているがかなり大きくなっている。品種保全は、近くにある他の椿の花との受粉を避けるため、接ぎ木の形で行われてきた。また、大きくなった九重をそのまま宝鏡寺に返還すれば、植え替え時のダメージが大きく生育が悪くなる。
そこで、京都薬用植物園で椿の保全を担当す小島正明氏は、「今回、バックアップ取っている樹木からクローンで取った苗木を宝鏡寺にお返しした」と説明した。また、「椿は、10軒の寺社からお預かりしている。これまで2010年、2023年に当該の寺社にお返しており、宝鏡寺で3回目となる」と報告した。
なお、京都薬用植物園では、春本番のツバキを自由に楽しむ「鑑椿会」を4月4日、午前200名/午後200名の定員で開催する。鑑椿会は事前申込制・抽選制で、3月22日まで次の公式ホームページ(https://forms.office.com/pages/responsepage.aspx?id=O_b9VyJ-o0WD3NNwAxY6rvcyoMjsRR9HuuiJbf0xId1UOVc0NFdYV1FIOTFTSENaOE8zT1FQVVRIQi4u&route=shorturl)で受け付けている。


