
住友ファーマは6日、大阪市内で非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞「アムシェプリ」の製造販売承認取得に関する共同記者会見を開催した。
アムシェプリは、京都大学医学部附属病院において実施された医師主導治験の結果に基づき、昨年8月5日に住友ファーマが製造販売承認申請を行い、同日、条件及び期限付承認を取得したもの。iPS細胞由来の再生・細胞医薬品として世界初の製品で、2030年代には、売上高1000億円超えのブロックバスター製品としての成長が期待される。
会見で木村徹社長は「条件及び期限付承認を頂いたのは、実用化への大きなマイルストーンで非常に喜んでいる」と笑みを浮かべた。さらに、「今後より多くの患者さんに本剤を届けるには、厳格な手順の元に多施設で製造販売後試験(P4)を実施した上で7年以内に改めて申請し、本承認を取得する必要がある」と強調。その上で、「この領域が広がるように他社も含めてP4成功を期待する声が多い。なんとしても達成したい」と決意を新たにした。

非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞の研究を推進してきた髙橋淳京都大学iPS細胞研究所所長・教授は、「私自身は脳神経外科医で、患者さんを治すのが最終目的である。だが、今回の条件及び期限付承認は一つのポイントである」と明言。加えて、「P4で、より多くの患者さんでアムシェプリの安全性・有効性を調べる機会を頂けたのは有り難い。きちんと成果を出すために改めて兜の緒を締め直したい」と語った。

水戸信彰住友化学代表取締役社長は、「住友化学は、ヘルスケア領域において再生細胞医薬事業を中長期的な新成長戦略の中核に一つに位置づけ、再生細胞医療の実用化に向けてグループ全体で長年取り組んできた」と紹介。「今後も大学や研究機関、国の支援を踏まえた基盤を最大限に活かして細胞医学分野が日本初の新たな産業として持続的に発展できるように尽力したい」と抱負を述べた。
条件及び期限付承認は、細胞を使った製品は従来の医薬品の治験のように数百人規模で行うのは困難であるとの観点から2014年11月、新たに導入された。有効性を推定して安全性が確認されれば同承認を行い、市販しながら有効性の検証、さらなる安全性を確認した上で、期限内(アムシェプリは7年)に本承認に繋げるというもの。
アムシェプリのP4試験は、現在実施施設(7施設を予定)を選定中で、2026年中に開始する。患者登録数は、18歳以上65歳以下(30例)、30例の移植完了後に65歳超(5例)の35例。「京大の医師主導治験では、69歳の患者で効果が認められなかったため、年齢と効果に関連性があるのかしかりと見極める」(木村氏)
患者登録から移植手術まで最大6カ月を要し、2年のフォローアップ期間を経て⽇常臨床での使⽤成績調査を実施し、35人のデータで本承認の申請を行う。P4試験の第1例目は今年の暮れ頃に移植手術が行われるものと推測され、35人の患者全員の手術を終了するは2~3年を掛かる。
木村氏は、「 2026年から2029年頃までは、P4試験に参加する35名のみに移植する。P4試験の移植完了後、施設や患者の範囲を拡⼤し、今後7年間でトータル100人強の移植手術を行う」スケジュールを示した。
髙橋淳氏は、同氏らの研究グループによる非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞研究を振り返った。パーキンソン病は、中脳黒質のドパミン神経細胞が進行性に脱落することにより、手足の震えやこわばり、運動低下ななどが生じる疾患だ。多くは50歳以降に発症し、日本には約29万人の患者が存在すると言われている。
健常者は、中脳黒質にドパミン神経がたくさんあって、脳内にドパミンが放出される。パーキンソン病になれば、ドパミン神経の中に不必要なレピー小体が蓄積し、ドパミン神経細胞が減少し、脳内のドパミン量が少なくなる。そこで、髙橋氏らは、ラットやカニクイザルの動物実験を経て、iPS細胞からドパミン神経を作ってパーキンソン病患者の脳に直接投与して体の動きを取り戻してやる研究に取り組み、「約20年の歳月を掛けて2018年に治験まで漕ぎ着けた」

治験結果は、ヒトiPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞細胞移植医師主導治験責任医師の髙橋良輔京都大学総合研究推進本部参与特定教授が報告した。
医師主導治験は、7例で24カ月の観察期間を費やした。具体的には、京大病院で元気なヒトから血液を採取してCiRAでiPS細胞を作製し、ドパミン神経前駆細胞作ってこれをもう一度京大病院に運んで脳神経外科医がパーキンソン病患者の脳に1人当たり500万~1000万個の細胞を移植して、神経内科と放射線医が安全性・有効性を評価した。
この世界初となるiPS細胞を用いた再生医療の治験では2年間安全性が観察されたが、安全性については、臨床試験に入る前に動物実験を繰り返し行った。マウスだけでなく、サルも用いて2年間、がんにならないか、変なところに移植した細胞が飛んで行かないかを経過観察した。
医師主導治験結果では、「重篤な有害事象なし」、「移植細胞に起因するジスキネジアなし」、「移植細胞の腫瘍性増殖なし」と安全性が確認され、拒絶反応も無かった。拒絶反応は免疫抑制剤中止後もみられなかった。定量評価では、低容量よりも高容量の方が移植細胞が増殖した。
治験における有効性は、細胞がきちんと定着して機能するかをPETを使って確認した。患者の症状が良くなるかは「ヤール分類」で確認し、少なくとも6例中4例で1~2段階良くなった(1例は安全性の確認のみ)。しかも30%以上の著効が3症例あり、56歳、61歳、62歳と若い患者にみられた。最も年齢が高かった69歳の症例は無効で、ベースラインからの重症度も高かった。
髙橋良輔氏は、「iPS由来ドパミン細胞の安全性と有効性が確認された。若くて重症度の低い患者がこの治療に適している可能性が示唆された。PETの結果からもより多くの細胞を正嫡させた方がより高い効果が期待できると考えている」と総括。その上で、「有益性を確認するには、多施設でより多くの患者さんの臨床試験が必要である」と語った。

