大阪医科薬科大学医学部生物安全実験研究室(鈴木陽一特務教授)と微生物学・感染制御学教室(中野隆史教授)の研究グループは2日、病原ウイルスの感染力を効率よく定量できる新しい自動解析ソフトウェア「plaQuest(プラークエスト)」を開発したと発表した。
従来、研究者が目視で数えていたウイルスプラークを自動で高精度にカウントできることが示され、薬剤の開発研究などで必要となるウイルス定量作業の大幅な効率化が期待される。
新型コロナウイルス感染症の流行時には、ウイルス感染の有無をみるためにPCR検査や抗原検査が幅広く使われた。だが、これらの検査手法は、基本的に化学物質としてのウイルス(核酸やタンパク質)を検出するものであり、微生物として活動状態にある(つまり感染力のある)ウイルスがどれだけいるのかを判断するものではない。
ウイルスの感染力を調べる方法にはプラークアッセイ法があるが、細胞培養プレートに無数に現れた小さなプラークを目視でカウントしないといけない難点があった。
こういった作業負担の軽減や結果の均一性を目的として、同研究では、ウイルスプラークを自動的に識別しカウントするソフトウェア 「plaQuest」 の開発に至った。
ヒトの疾患を惹起するウイルスの多くは、増殖するために細胞に感染するとその感染細胞を殺してしまう。これはウイルスの細胞変性効果と呼ばれ、感染力のあるウイルスの存在を知る指標となる。
ウイルスの細胞変効果によって死んだ細胞の集団はプラーク(Plaque)と呼ばれるが、プラークが目視で確認できる大きさになると、プラークの数を数えることでウイルスの感染力(感染価)を数値化することが可能になる(図1)。

ウイルスにプラークを作らせて感染力を定量するこの手法( プラークアッセイ法 )は、サンプルに含まれる感染性ウイルスの量を調べるのに有用であるが、小さなウイルスプラークを目視でひとつひとつ数えなくてはならないのが欠点であった(図 2 )。 これは、薬剤試験などの多量のサンプルを一度に扱うような実験では、特に大変な労力を要する。

白く見える点がプラークである。
同研究では、細胞培養プレートに作られたウイルスのプラークを自動的にカウントするソフトウェア 「plaQuest」 を開発し (図3)、ウイルス阻害剤の評価試験における有用性を検証した。

さらに、従来のプラークアッセイ法に plaQuest による自動カウントを組み入れることで、チクングニアウイルス、新型コロナウイルス、そしてデングウイルスといった病原ウイルスに対する阻害剤の有効濃度の測定を効率的におこなえることを実証した (図4)

様々な濃度の阻害剤(ミコフェノール酸)で処理したチクングニアウイルスの感染価をプラークアッセイ法で測定する際に,得られたプラークをplaQuestで自動カウントした場合(縦軸)と,マニュアルでカウントした場合(横軸)のそれぞれの数をプロットすると高い相関が得られた(左グラフ)。
さらに、plaQuestでカウントしたプラーク数をもとに作成したミコフェノール酸のウイルス阻害曲線(中央グラフ)は,マニュアルカウントで得られたプラーク数で作成した阻害曲線(右グラフ)とほぼ同じであった。
従って、plaQuestは、抗ウイルス薬の開発を目的とした研究に大変有用なツールであることが示され、その活用が期待される。
