鹿児島大学とサーブ・バイオファーマの研究グループは26日、独自開発した腫瘍溶解性アデノウイルス「Surv.m-CRA-1(サバイビン反応性・多因子増殖制御型アデノウイルス-1)」について、世界初の原発性悪性骨腫瘍への本承認(実用化)を目指した鹿児島大学病院等での多施設共同P3医師主導治験を開始すると発表した。
「Surv.m-CRA-1」は、がん細胞で特異的に活性化する「サバイビンプロモーター」を搭載した腫瘍溶解性ウイルスである。正常細胞を傷害することなく、がん細胞のみでウイルスが増殖し、選択的にがん細胞を死滅させる。そのため、高い治療効果と安全性を併せ持ち、さらに既存治療法が効かないがん幹細胞にも作用する、新しいがん治療薬(再生医療等製品)として期待されている。
同剤は、有効な治療法が確立していない難治性がんの克服を目指し、第一弾として希少がんである原発性悪性骨腫瘍を対象に実用化を進めている。P2医師主導治験でポジティブな結果が得られたため、今回、原発性悪性骨腫瘍に対する本承認取得を目指すP3医師主導治験の開始に至った。
なお、日本のアカデミア(大学などの研究機関)で開発された遺伝子治療製品が、同承認を目指すP3医師主導治験に到達したのは今回が日本初となる。
さらに、腫瘍溶解性ウイルスの同承認は世界(欧米諸国)でもこれまでに1例(日本では条件付き承認が1例)しかなく、同成果は日本初、世界2例目の本承認取得を目指す挑戦となる。
原発性悪性骨腫瘍は、骨そのものから発生する悪性腫瘍で、日本国内では年間800人程度、欧米では年間1万人程度の発症頻度の、いわゆる希少がんの代表である。骨肉腫など若年層に多く見られるものもある一方、多くの原発性悪性骨腫瘍には有効な治療法がなく、遺伝子治療、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤などの革新的な医薬品の開発も十分に進んでいない極めてアンメット・メディカル・ニーズの高い難治性がんの一つである。
特に、遺伝子治療に限定すると原発性悪性骨腫瘍に対して承認された遺伝子治療薬は腫瘍溶解性ウイルスに限らず世界でも未だ例はなく、「Surv.m-CRA-1」が承認されれば世界初となる。
本年2月18日に第3期医療分野研究開発推進計画(2025~2029年度)が健康・医療戦略推進本部で決定され、同日に第3期健康・医療戦略が閣議決定された。
第3期健康・医療戦略は、基本理念として「①世界最高水準の技術を用いた医療の提供と、②新産業創出等による産業の活性化、社会課題を解決し、経済成長に結びつける」-を掲げている。
その基本方針には、「健康長寿社会の実現に向け世界最高水準の医療技術に資する研究開発を推進し、その成果により産業競争力強化にも貢献する」に加えて、「絶え間なく創薬シーズを創出し、出口志向性を強化して成果の実用化を加速する」が定められている。
同推進のため、日本医療研究開発機構(AMED)による支援を中核として、8つの統合プロジェクトが再編・決定された。同研究においては、AMEDを中心とする多数の公的競争的研究費を獲得することで、基礎研究、非臨床開発、P1相ならびにP2相医師主導治験を進めた。
P2治験の後半以降、今回のP3医師主導治験に関しては、鹿児島大学認定ベンチャーであるサーブが社会実装に向けた取り組みを進めている。また、治験完了後の承認申請および承認取得後の販売は、日本臓器製薬と提携し、速やかな市場提供体制を整えている。
同研究の成果は、まさに第3期健康・医療戦略の基本理念・方針を具現化したものだ。8つの統合プロジェクトのうちの、再生・細胞医療・遺伝子治療プロジェクト、橋渡し・臨床加速化プロジェクト、さらにイノベーション・エコシステムプロジェクトの成功事例として注目される。
政府は内閣府に、さらなる経済成長を実現するための国家施策として、官民連携の戦略的投資を促進し、世界共通の課題解決に資する製品、サービス及びインフラ提供を目的とした日本成長戦略本部を設置した。その具体化に向けて、日本成長戦略本部の下、日本成長戦略会議(議長:高市早苗首相)を開催している。
日本成長戦略会議においては、総合経済対策における重点17分野の一つとして、「創薬・先端医療」を掲げ、「再生・細胞医療・遺伝子治療の研究開発を促進」や「革新的がん医療の研究開発を支援」、「継続的に創薬スタートアップから革新的新薬を生み出す創薬基盤・インフラの強化を支援」などを具体的施策に位置付けている。同研究成果もこれらに寄与するものと期待される。
今後も、鹿児島大学及びサーブは、共同研究機関、支援機関、AMED等の公的機関と連携しながら、「Surv.m-CRA-1」を含む遺伝子治療薬の開発・社会実装を実現し、グローバルに解決が求められているアンメット・メディカルニーズの難治性疾患の克服と日本発の創薬・先端医療の発展に貢献していく。
◆小戝健一郎鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 遺伝子治療・再生医学分野教授兼 サーブ・バイオファーマ創業者・取締役会長・最高科学責任者(CSO)のコメント
私は、「多因子増殖制御型アデノウイルス(m-CRA)」作製技術を独自に開発し、同技術を用いて安全性と治療効果が極めて高くがん幹細胞も治療できる革新的性能の「サバイビン反応性-多因子増殖制御型アデノウイルス(Surv.m-CRA)」を開発した。
今回、原発性悪性骨腫瘍に対する本承認を前提とした第Ⅲ相試験の開始に至った。今後もSurv.m-CRAシリーズの一日も早い社会実装化に向けて研究開発を加速していく。
◆永野聡鹿児島大学医学部保健学科 理学療法学専攻 臨床理学療法学教授
私は、これまでに実施したSurv.m-CRA-1を用いたP1及びP2試験、並びに今回のP3試験において、治験責任医師として参画している。原発性悪性骨腫瘍は、いまだに30年以上も前の治療薬が使われるなど、近年新しい薬が開発されていない状況である。
こうした中、Surv.m-CRA-1は、これまでの治験で長期観察にご同意頂いた患者さんについて、投与後も長期にわたり治療効果が継続し、かつ骨リモデリングが確認されたケースがあった。本剤が、患者さんにとっての新たな治療選択肢となることを大いに期待している。
◆石塚賢治鹿児島大学病院病院長のコメント
小戝先生が開発されたSurv.m-CRA-1は、鹿児島大学病院 整形外科で骨軟部腫瘍へのFirst-In-Human医師主導治験を2020年4月に完了し、令和21年からは悪性骨腫瘍への多施設共同(本院整形外科、国立がん研究センター中央病院、久留米大学病院)の医師主導治験P2相に進み、高い安全性と有効性を確認している。
また本院消化器内科で実施した膵癌への第1/2相医師主導治験においても、高い安全性と一定の有効性を確認している。bench to bedsideの象徴ともいうべき本プロジェクトはいよいよP3試験を開始することとなった。P1試験から取り組んできた私ども鹿児島大学病院としても大変誇らしいことで、本試験においても高品質の臨床試験を行い、安全かつ適切に日本発の革新的がん治療薬の有用性を検討できるよう病院一丸となって貢献したい。
◆山田昌樹サーブ・バイオファーマ代表取締役社長のコメント
今回、当社の共同研究パートナーである鹿児島大学において、世界2例目となる腫瘍溶解性ウイルス治療薬の本承認を前提としたP3試験を開始することになり大変嬉しく思う。治験完了後の、承認申請並びに本承認取得後の販売については、すでに整形外科領域に強みを持つ日本臓器製薬と提携済みである。原発性悪性骨腫瘍に苦しまれている患者さんに一日でも早く治療薬をお届けできるよう、今後も鹿児島大学や日本臓器製薬と連携して開発を加速していく。

