ヒアルロン酸による光老化抑制効果発見 ロート製薬

 ロート製薬は、愛媛大学大学院医学系研究科皮膚科学との共同研究で、超低分子ヒアルロン酸であるオリゴヒアルロン酸4糖(HA4)が光老化した皮膚で増加する炎症性マクロファージの分極誘導を抑制し、炎症性サイトカインの発現を低下させる作用メカニズムを確認した。さらに、HA4が光老化で低下する繊維芽細胞のコラーゲン産生能を改善することを発見した。今後、 HA4 を配合した光老化対策のスキンケア製品の開発や、同研究成果が高齢化社会における健やかな肌維持のための科学的基盤と成り得ることが期待される。
 同社は、健康的な肌を維持し、目や皮膚などあらゆる組織に備わる成分であるヒアルロン酸に着目し、その多様な機能と可能性の研究をすすめてきた。今回、愛媛大学との共同研究でHA4の光老化抑制効果に関する研究を行い、新たな抗炎症・抗老化メカニズムを解明したもの。
 同研究成果は、本年 5 月 7 日~10 日に米国サンディエゴで開催された「2025 SID Annual Meeting(米国皮膚科学会年次総会)」で発表された。また、同研究論文は、国際学術誌「Frontiers in Immunology」に掲載された。
 ヒアルロン酸はその高い保水力から保湿成分として様々なスキンケア製品に広く利用されてきた。さらに、ヒアルロン酸は分子量の違いによって多様な生理活性を持つことが明らかになってきている。
 ロート製薬でも紫外線による炎症の抑制など様々な機能を発見してきた。中でも、高分子ヒアルロン酸の抗炎症作用に関する研究は数多く報告されている一方で、低分子ヒアルロン酸に関する研究例は少なく、超低分子ヒアルロン酸であるHA4に関する皮膚への研究例についてはさらに限られている。
 将来の肌に大きな影響を及ぼす 「光老化」 とマクロファージ皮膚の老化には、加齢による「自然老化」に加えて紫外線などの外的要因による「光老化」が関与している。
 特に、顔や手など日光にさらされる部位の老化の大半は光老化によるものと報告されている。さらに、日本の地表に到達する紫外線量は年々増加しており、皮膚における光老化の制御は美容および健康の観点から重要な課題である。
 近年の研究で、皮膚の光老化において真皮に存在するマクロファージの免疫応答が重要な役割を果たすことが指摘されている。光老化が進行した皮膚では、炎症を引き起こすM1マクロファージが優位になり、抗炎症性のM2 マクロファージとのバランスが崩れている状態にある。
 このマクロファージバランスの乱れは、コラーゲンの産生・分解といった代謝機構(コラーゲンリモデリング)に悪影響を及ぼし、皮膚の弾力性低下など、光老化特有の症状を引き起こす一因であると考えられている。
 同研究では、HA4 がマクロファージの分極・性質を調整することで、線維芽細胞によるコラーゲンリモデリングを間接的に改善するという新たなメカニズムに着目された。これは、紫外線による直接的なダメージに加え、免疫細胞と線維芽細胞との間の相互作用(クロストーク)を介した老化促進のプロセスに着目した、新しいアプローチだ。(図1)

図1:紫外線の肌への影響とヒアルロン酸の機能


 まず、炎症性の M1マクロファージへの分極誘導過程に HA4 を添加したところ、M1マクロファージの代表的な炎症性サイトカインであるIL-6の遺伝子発現量の有意な低下が確認された。(図2)

図2:各マクロファージ群における炎症性サイトカイン(IL-6)の遺伝子発現量の比較

 次に、M1 マクロファージが分泌する炎症性因子の影響を検証するため、その培養上清(M1)をヒト皮膚の線維芽細胞に添加した結果、添加しないもの(コントロール群)に比べて、炎症性サイトカイン(IL-6、IL-8)の発現が上昇し、コラーゲン分解に関わる酵素である MMP-1 の発現も増加した。
 一方で、HA4 処理したM1マクロファージ由来の上清(M1+HA4)を用いた場合、これらの炎症性サイトカインおよび MMP-1 の発現は有意に抑制された。(図3)

図3:各マクロファージ上清を添加した線維芽細胞における遺伝子発現量の比較

 さらに、免疫蛍光染色と蛍光顕微鏡による観察の結果、通常の線維芽細胞が産生するコラーゲン線維(コントロール群)と比較して、M1上清を添加した条件ではコラーゲン線維の量が減少していることが確認された。
 一方、M1+HA4 上清の条件では、コラーゲン線維の形成が改善されていることが明らかになった。(図4) 

図4:各上清添加した線維芽細胞のコラーゲン線維形成の比較

 同研究により、HA4 が M1 マクロファージの炎症誘導と、それに伴う線維芽細胞におけるコラーゲン分解の促進を抑制する作用を持つことが示された。
 特に、M1 マクロファージから放出されるIL-6などの炎症性サイトカインが線維芽細胞でのMMP-1 などの発現を高めることで、肌の弾力性を担うコラーゲン線維の形成が阻害されるというメカニズムが明らかになった。
 これは、光老化に伴うシワやたるみの形成メカニズムの一端を解明する結果といえる。
 一方で、HA4がM1マクロファージの炎症性変化を制御し、それを通じて線維芽細胞におけるコラーゲン線維の維持・再形成を促進するため、HA4は単なる保湿成分にとどまらず、抗炎症・抗光老化成分として新たな機能性を有する可能性があると考えられる。(図5)

図5:HA4の光老化抑制効果を示すグラフィカルサマリー

 同研究成果は、超低分子ヒアルロン酸である HA4 が単なる保湿成分ではなく、光老化に起因する炎症やコラーゲンリモデリングを制御する新たな成分として、スキンケア製品へ応用される可能性が期待される。
 また、光老化に関与する皮膚の細胞間相互作用(クロストーク)について理解を深めることで、皮膚老化メカニズムの解明にも貢献すると考えられる。今後、同研究が進展すれば、高齢化社会において健やかな肌を維持するための科学的基盤となり、美容・健康の両面から人々のQOL向上に寄与することが期待される。

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