早稲田大学商学学術院の清水洋教授、ウィスコンシン大学の山口翔太郎アシスタント・プロフェッサーらの研究グループは、企業の加齢とイノベーションの関連性について、研究開発のポートフォリオや硬直性を測ることで、企業の硬直性が高まると研究開発が生み出す特許量は多くなるものの、その質が低下してくることを明らかにした。
この結果は、高齢化した企業ほど、経営資源の柔軟な組み換えが戦略的に必要になることを強く示唆するもの。同研究は、アメリカ企業を対象にしたものであるが、日本企業でも同じ傾向が観察された。
これらの研究成果は、2025年4月26日(現地時間)にSPRINGER NATURE社発行の『Journal of Evolutionary Economics』誌にオンライン掲載された。
これまでの研究では、企業が加齢すると収益性が低下したり、イノベーションが少なくなるが広く観察されてきた。また、それは企業が硬直化するからだろうと考えられてきた。だからこそ、スタートアップなどの新しい企業が重要だと考えられてきが、その硬直化の程度ははかられてはいなかった。
今回の研究では、硬直化の程度を、企業の研究開発ポートフォリオの過去との近似性をコサイン類似度を使って測定した。コサイン類似度とは、2つのモノゴトの類似性を測定するための手法である。2つのモノゴトをベクトルで表し、そのベクトルがどれくらい同じ向きを向いているかを数値で表す。
これまでにコサイン類似度は、異なる企業間の技術的な類似度を測定するときには使われてきた。同研究はそれを、同じ企業間の過去との研究開発の類似度を測定することに応用した。
その結果、企業の研究開発ポートフォリオが硬直化すると発明の質が低下する一方、発明の量は多くなることが観察された。この傾向は、アメリカ企業だけでなく、日本企業でも観察されている。
日本では、アメリカに比べて企業の新陳代謝が少なく、「企業の高齢化」が進んでいると指摘されている。同研究は、こうした状況を踏まえ、①加齢した企業にとっては、経営資源を柔軟に組み替えることができるかどうかが戦略的に重要であるという点と、②新たな企業の創出や企業の退出を促進することが重要であることーを改めて確認するものだ。
今回は、企業の加齢の影響の解明が進められた。ただ、加齢自体が問題というわけではない。加齢に伴って、組織が硬直化してしまうことが問題である。今後は、加齢しても硬直化しないのは、どのような企業なのかを分析していく予定である。
また、硬直化と言っても悪いことばかりではない。同じ領域で研究開発を続けるからこそ到達できる成果があるのではないかと考えられる。特に、ジェネラル・パーパス・テクノロジーと呼ばれる汎用性の高い技術は、まさにこの例といえるだろう。社会全体で研究開発を考えると、同じ領域で累積的に研究開発を続けられることも重要と考えられる。
◆研究者のコメント
企業の加齢の問題は、日本では顕著である。今回の論文では一般的に経営資源の組み換えがしやすいと考えられているアメリカ企業で分析した。日本企業でも組織の硬直化で同じような傾向が見られている。実は、むしろわれわれの調査では、日本企業の硬直化の程度はさらに高いものであった。
おおよそ30歳代の日本企業は90歳代のアメリカ企業と同程度の硬直性の程度である。既存の大企業はイノベーションでも重要な役割を担うべき存在である。どのようにすれば、大企業が硬直化せずにイノベーションを生み出していけるのかを考える第一歩としたいと考えている。