COPD医療の変革に向けた共同宣言に合意

アストラゼネカは15日、大阪・夢洲で開催されている 2025 年大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン 「Better Co-Being」において、健康寿命の延伸に向けた「トランスフォームケア(保健医療の変革)」フォーラムを共催した。
同フォーラムでは、日本における高齢化社会進展に伴う医療課題を受け、求められる対策について国内外の産官学民の有識者とともに、産官学連携で非感染性疾患(Non-Communicable Diseases、NCDs)対策に取り組むことで、高齢化社会における健康寿命の延伸を目指し、議論を展開した。
また、慢性閉塞性肺疾患(COPD)でトランスフォームケアをどう実現するか議論を行った登壇者で、「COPD医療の変革に向けた共同宣言」が合意された。
日本では高齢化社会の進展に伴い、がん、循環器疾患、呼吸器疾患など NCDsの患者数が増加しており、医療現場・システムへの負担拡大が課題になっている。日本の総死亡数のうち約85%はNCDsによるもので、早期診断・早期治療の促進などを通じた死亡率の減少が求められている。
国民の健康増進の推進のための基本方針に基づく健康づくり運動「健康日本21(第三次)」においては、NCDsの有病患者数増加が指摘され、「経済財政運営と改革の基本方針2024(骨太方針2024)」においては、『医療・介護の担い手を確保し、より質の高い効率的な医療・介護を提供する体制を構築するとともに、医療データを活用し、医療のイノベーションを促進するため、必要な支援を行いつつ、政府を挙げて医療・介護 DXを確実かつ着実に推進する。』とされている。
また、長寿国・日本では、健康寿命の延伸が政策課題であることが示され、その対策として医療 DX・データヘルス活用によるEBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)の強化が掲げられている。
フォーラムは、グローバルセッションとジャパンセッションの2部制で開催され、海外や国内における産官学民の有識者とともに、トランスフォームケアの取り組みを紹介しながら、NCDsのひとつであるCOPD)をはじめ、循環器疾患との関連について現在の課題とその解決策についての議論を展開。
海外からはドイツ フュルト病院 呼吸器内科・心臓病学診療 ハインリッヒ・ウォルト教授、UAE SEHA アブダビヘルスサービス腎臓ケアスティーブン・ホルト教授、台湾国立台湾大学医学部パン・チー・ヤン主任教授などが海外事例を紹介した。
グローバルセッションでは、現在、世界的にヘルスケア最大の変革が起きており、保健医療の強靭性、医療費抑制、デジタル革命、環境保全が求められていることが語られた。慢性疾患による負担は世界的に増加しており、慢性疾患(希少疾患を含む)およびがん患者さんは世界で約30億人、また、多くの患者が未診断・未治療であると説明された。
トランスフォームケア戦略として、予防・イノベーションを中核に据え、世界中の保健医療システムと連携し、疾患の進行、入院、早期死亡の減少を目指し、①積極的なスクリーニングと早期診断、②診療現場でのガイドライン採用、③病診連携と個別化医療、④革新的な臨床研究による医療政策への貢献ーの4つの主要な医療分野に注力すると説明された。
また、COPD に対し早期のアクションを実現するには保健医療ポリシーの変革が必要とされ、医療変革を行った事例(ドイツ、カナダ、中国)が紹介された。 パネルディスカッションでは、トランスフォームケアを実現した官民パートナーシップの主な事例として、ドイツ、台湾、アラブ首長国連邦、イングランドからの海外専門家の演者により実績と成果が紹介され、日本においてNCDsで真に保健医療を変革する機会は何か、また、日本のステークホルダーは他の国々から示された例からどのような教訓を引き出せるかが語られた。
一方、ジャパンセッションでは、次の3点が議論された。
1、科学的根拠に基づく疾患定義と全国的データ整備の推進
日本国内における COPD の疫学データは限定的である状況が議論され、疾患の全体像をより明確にするため、国との連携を通じ、科学的根拠に基づく疾患定義を確立する必要性を訴えた。全国的なデータ整備を推進し、実態に即した効果的な対策立案の基盤を構築し、自治体主導によるエビデンスベースの実証事業による政策形成の推進の重要性についても話し合われた。
2、地域医療における診療支援体制および多職種連携の強化
地域医療における早期診断・早期治療介入を促進するための方策が話し合われ、特に、一般医師にも利用可能な診断補助ツールの導入を推進し、病院と診療所の連携体制を強化する重要性が強調された。
さらに、心肺連携を軸とした循環器・呼吸器領域の多職種・多科連携を促進が提案され、地域における包括的な患者ケア体制、すなわち地域連携による患者フォローアップが必要であると話し合われた。
3、 医療DXと民間連携による持続可能な地域医療モデルの構築
専門医不足等の人的制約を踏まえ、PHR(Personal Health Record: 個人健康記録)・EHR(Electronic Health Record:電子健康記録)等の医療情報システムの連携による日常的な健康情報管理の仕組みを整備することの重要性が議論された。
さらに、オンライン診療や一次スクリーニングの導入を含む医療DXを活用、加えて、民間資源の活用と中長期的なサポート体制を強化し、制度の変化にも柔軟に対応可能な持続的かつ発展的な地域医療体制の構築を目指していく必要性が議論された。
COPD医療の変革に向けた共同宣言
日本におけるCOPDは、急速な高齢化により深刻な課題となっている。現在、治療を受けている患者は約38万人にとどまる一方、診断も治療もされていない潜在患者は 500万人以上と推定されている。
2023年の死者数は約1万6000人であるが、未診断の患者を含めると最大6万人に上る可能性もあり、実態は大きく過小評価されていると考えられる。
同様に、COPD は国内統計で死因第16位とされているが、グローバルヘルスオブザーバトリー(2021年)のデータでは第7位に位置づけられており、より正確な認識と対策が急務である。
こうした現状を踏まえ、関係者が協力し、持続可能で革新的な解決策を見出す必要性について、次の通り共同で宣言した。
1、 COPD の疫学的再定義とデータの充実化
現時点では、COPD に関する日本国内の疫学データは十分に整備されておらず、疾患の全体像が正確に把握されていない。今後は、国との連携のもと、科学的根拠に基づく明確な疾患定義の確立と全国的なデータ基盤の整備を進め、COPDの実態を適切に明らかにする。
2、実地医療への支援ツールと病診連携の強化
COMORE-byや関連学会の知見を基に、一般診療医も活用できる簡便なCOPD診断支援ツールの導入を推進する。また、早期診断と早期介入の実現に向けて、病院と診療所の連携体制を強化し、地域医療における取り組みの効果を高める。
3、 循環器・呼吸器領域の多職種連携の推進
心臓と肺の機能は相互に関連しているものの、医療現場においては循環器疾患のある患者に対するCOPD管理の実施が十分に進んでいない。多科連携を強化するとともに、介護体制なども含めた包括的な患者ケア体制の整備を進める
4、 地域医療システムの継続とリソース確保
これまで地域医療における COPD 管理の推進に取り組んできたが、財源や人材の確保が課題となっている。
今後は、民間の資源活用も視野に入れ、医療 DX を活用した一次スクリーニングやオンライン診療の導入など、新たな手法を取り入れ、持続可能な医療提供体制の構築を目指す。
5、PHR と臨床導入の仕組み構築
PHR(Personal Health Record)は COPDの継続的な管理において有用な情報基盤となり得る。今後は、EHR(電子カルテ)との連携を進め、バイタルデータやライフログなどの情報を臨床現場で活用可能なシステムとして整備する。
6、自治体主導のEBPMによる国施策への貢献
自治体が保険医療体制の改善に取り組む際には、同様の取り組みを行う他の自治体と連携し、実証事業
の展開を拡充するとともに、その成果を国の政策形成に活用するためのエビデンスの蓄積が求められる。これらの取り組みを通じて、医療の成果指標に加え、効率性や費用対効果に関する指標の明確化を図る。
7、変革の持続に対する継続的コミットメント
COPD 医療における保健医療体制の継続的な改善には、複数年にわたる関係者の継続的な取り組みが重要である。関係者の異動や制度変更の影響を最小限に抑えるため、企業を含む民間の支援を得ながら、改善の持続性と推進力を維持し、地域主導で保健医療体制の発展を図る。
同提言は、健康寿命の延伸による患者のQOL(生活の質)の向上と持続可能な医療システムの実現を目的に、関係者が協力し、科学的アプローチと共創を通じて医療の未来を切り拓くことを目指している。