鳥居薬品買収で強みの低分子創薬力をさらに強化 塩野義製薬

左から嶋𠮷氏、手代木氏、近藤氏

 塩野義製薬は7日、東京都内で日本たばこ(JT)傘下の鳥居薬品およびJTグループ医薬事業買収に関する記者会見を開催した。
 同社は、8日より6月18日まで鳥居薬品の完全子会社化を目的とした株式公開買い付け(TOB)を実施する。TOBの買い付け総額は約807億円。TOB終了後にJTが持つ鳥居株を約700億円で取得し、9月に完全子会社化を目指す。鳥居薬品の買収に加えて、JTの医薬品事業を54億円、JT完全子会社の海外開発会社アクロスを36億円で取得する。今回の買収総額は約1600億円となる。JTは医薬事業から撤退し、本業のたばこ事業に集中する。
 塩野義製薬による鳥居薬品およびJTグループ医薬品事業の買収は、「QOL疾患の製品アセット強化と情報提供の拡大」、「グローバルに競争力のある自社製品の創出」を目的としたもの。会見で手代木功塩野義製薬会長兼社長CEOは、「鳥居薬品は、アレルゲン領域、皮膚疾患領域を成長ドライバーとしいる。当社は感染領域での高いプレゼンスがあり、異なる領域の強みを統合して営業活動におけるシナジー効果を目指したい」と強調した。
 加えて、「塩野義製薬が有する製造ノウハウを投入してグローバルな供給体制を強化するとともに原価を下げていく」考えも示した。
 研究開発体制では、「今回の買収策により当社の強みである低分子創薬力がさらに強化される」と言い切った。手代木氏は、低分子創薬の利点として、「新型コロナ感染症では、抗体薬、ワクチンが大きな位置づけにあるが、ウイルスの中に入って作用する低分子薬はウイルス変異があっても長く効く」ことを挙げた。
 中枢神経薬についても、「脳血液関門は低分子の方が通過しやすい。睡眠、認知機能では低分子に強みがあり、価格面でも高分子薬ほど高額にならない」と低分子薬開発の必要性を力説し、「今回の日本企業買収を通じて、日本発の医薬品を創出していきたい」と抱負を述べた。
 一方、嶋吉耕史JT 副社長は、「昨年の夏過ぎに塩野義製薬から買収提案があった」と明かし、「近年、新薬創出のハードルが上がっており、メガファーマを中心に国際的な開発競争が激化している。中長期的な成長が不透明な状況だった」と明言した。
 その上で、「40年近く続けてきた医薬品事業から撤退し、新薬創出に重点を置き、JTの医薬品事業部の創薬力と鳥居薬品の販売力の事業価値を認めてくれる塩野義製薬に承継する判断をした」と語った。
 近藤紳雅鳥居薬品代表取締役社長は、「塩野義製薬のリソースを活用することでシナジー効果があると判断した」と述べ、「JTの医薬品事業部+鳥居薬品よりも、より早くより大きく確実に事業成長できる」との認識を示した。
 塩野義製薬は、売上収益目標として2025年度5500億円(2024年度通期予想4600億円)を掲げており、今回の買収によりJTの医薬品事業部と鳥居薬品の売上高1000億円が上乗せされる。販売のコストシナジーについては、今後が期待される(手代木氏)。また、完全子会社化後は、鳥居薬品の社員592名、JT医薬品事業部の670名が塩野義製薬に移籍する。
 手代木氏は、鳥居薬品、JT医薬品事業部の買収を振り返り、「これだけのM&Aを過去十数年間やってなかったのでスタッフも含めて不慣れな点があった。もう少し早くできたと思う」と明言。さらに、「今回の経験により法務、総務、経営企画などどこ強化すればM&Aがスムーズに進むか学ばせて頂いた。今後の糧にしたい」と述べ、さらなるM&Aの可能性を示唆した。

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