
大阪公立大学と塩野義製薬は3日、大阪市内で感染症分野を中心とする包括連携協定締結式を開催した。
同提携は、産学官民連携の「大阪モデル構築」を見据えた共同研究・人材育成を推進し、大阪府ひいては国内外における公衆衛生の向上並びに、人々の健康の維持・増進に寄与することを目的とするもの。
これまで大阪公立大学と塩野義製薬は、感染症分野に対する研究開発の共通のニーズおよび共に大阪府内に拠点を置く利点を活かした密接な連携により、「急性呼吸器感染症の次世代診断技術開発」および「それを目的とした臨床検体収集」、「臨床研究ネットワークの構築」などの取り組みを進めてきた。
今回、新型コロナウィルス感染症パンデミックの経験を踏まえ、幅広い学問分野を有する大阪公立大学の「総合知」を実践し、行政との連携で「マクロ感染症学」の視点で感染症対策研究を行う大阪国際感染症研究センターと、塩野義製薬のイノベーション創出力を活かした包括連携が締結された。
同包括連携協定に基づき、大阪公立大学と塩野義製薬では次の取り組みを実施する。
1、国際的視野での教育、研究、啓発、情報収集及び発信
2、公衆衛生体制の強化
3、感染症危機における対策の準備、対応
4、感染症対策に係る大阪府・大阪市と直結した政策支援や提言
5、研究者及び学生の人材交流、育成
6、 その他、同協定の目的に資する取り組み

締結式では、辰巳砂昌弘大阪公立大学学長が、「本学は15研究科を有する総合大学で、多様な‟知”を融合して新たな価値を創出する‟総合知”を目指している」と明言した。
さらに、「大阪国際感染症研究センターは、正に‟総合知”の象徴である。関西で唯一医学部と獣医学部を併設している強みを活かしながら、人獣共通の感染症の研究も行っている」と特徴を紹介。
その上で、「60年以上感染症研究に携わり素晴らしい実績を挙げて来られた塩野義製薬と産学官民連携の‟大阪モデル”を構築し、国内外の感染症対策に貢献したい」と抱負を述べた。

手代木代表取締役会長兼社長CEOはプレゼンテーションの中で、コロナ禍での新型コロナ経口治療薬「ゾコーバ」の開発を振り返り、「対象となる患者さんはおられたが、それを臨床試験に繋げる仕組みが出来ていなかった」と指摘した。
その経験をもとに「大阪は、コロナ禍において新しい病床を作ったり罹患者のホテルの隔離などのフットワークは早かった。平時からパンデミック発生時に備えた臨床試験の準備を行い、こうした対策の下に質の良い治験を実施して新薬が提供できる仕組み作りが重要である」と訴えかけ、今回の連携協定締結による臨床試験の課題解決にも大きな期待を寄せた。

掛屋弘大阪国際感染症研究センターセンター長は、行政や医学部付属病院、獣医臨床センターと連携する同センターと塩野義製薬との共同研究について、「関西で新規治療薬治療の基礎研究から臨床評価までトータルの支援体制の構築・提供を目指したい」と強調。
具体的な施策として、①高度微生物教育・研究センターの共同利用、②人獣共通感染症、新興感染症、薬剤耐性菌に関する共同研究、③パンデミック下でも実働可能な新薬の臨床試験を実施する関西県内の医療機関を中心とした組織体制作り、④共同評価(市販後調査)ーを挙げた。
③については、「2022年7月には1日2万5000人の新型コロナ患者が出現したが、ゾコーバの臨床試験を行った人はわずか数名であった。パンデミックで患者が病院に押し寄せた時の治験対応は難しい。今回の協定を結ぶ切っ掛けとの一つになった」と明かし、「臨床研究ネットワークの準備」の重要性を訴求した。
