参天製薬の日本初の近視進行抑制点眼剤「リジュセア」(一般名:アトロピン硫酸塩水和物)は、昨年12月27日に国内における製造販売承認を取得した。
同剤は、日本で初めて製造販売承認を取得した近視進行抑制点眼剤で、薬価基準未収載医薬品として販売予定のため、健康保険等の公的医療保険の給付対象外となる。
同社では、開発中の他のアトロピン点眼剤と合わせ、グローバルのピークセールスを約600億円と見込んでいる。
近視とは、主に眼軸長が長くなることにより網膜の手前でピントが合ってしまい、遠くのものを見る時にうまくピントが合わせられずにぼやけて見える疾患だ。近視は、体の成長とともに進行し、不可逆的であるため、患者のQOLに影響をおよぼす。
また、近視が進行し強度近視になると、視力障害を伴う失明に至る可能性のある重度の合併症の発症リスクが増加すると報告されている。低年齢であるほど年間進行量が大きいという特徴があり、主に学齢期に進行するため、この時期の進行抑制が重要と考えられている。
一方、本邦において近視は、眼鏡やコンタクトレンズ等で矯正されるのが一般的で、近視の進行を抑制する目的で各種治療が行われている実態はあるものの、いずれも近視の進行抑制に係る承認はされていなかった。そこで参天製薬は、日本初となる近視進行抑制を効能・効果とする承認薬の実現を目指し、同剤を開発した。
1日1回就寝前に点眼する同剤は、近視進行抑制を目的として、参天製薬とシンガポールの国立眼科・視覚研究所であるシンガポールアイリサーチインスティテュート(SERI)が共同開発した点眼剤で、アトロピン硫酸塩水和物を0.025%含有している。
アトロピンは、ムスカリン受容体の可逆的拮抗薬で、ムスカリン受容体の活性化を阻害することにより、網膜又は強膜に直接的もしくは間接的に作用し、強膜の菲薄化(ひはくか)を阻害することで、眼軸の伸長を抑制すると考えられている。
同剤は、主に小児を対象に投与することから安全性を考慮し、防腐剤を含まない一回使い切りタイプのミニ点製剤である。
同剤の有効性については、国内で近視患者を対象に行われたP2/3相プラセボ対照二重遮蔽比較試験において、投与24ヵ月後における調節麻痺下他覚的等価球面度数の投与前からの変化量について、プラセボ群に対し優越性が検証された。また、投与24ヵ月後における投与前からの眼軸長の変化量について、同剤群は、プラセボ群と比較して有意な差が認められた。
以上の臨床試験結果から、同剤の近視進行抑制効果が認められまた。なお、この有効性は3年間にわたり持続することが示された。同試験における、主な副作用は、羞明9.0%(11/122 例)であった。
近視は、患者数が2030 年には世界人口の 39.9%、2050年には 49.8%に達すると予想されている。日本においては、文部科学省が実施した学校保健統計調査で、裸眼視力1.0未満の者の割合は年々増加しており、2023年度調査では小学校で37.7%、中学校で60.9%、高等学校で67.8%という結果が示されている。
近年の近視の増加は、特に子供たちの屋外活動時間の減少と、読書、勉強、デジタル機器の使用等、近業作業(近くを長時間見る作業のこと)活動の増加が組み合わさったことによるライフスタイルの変化に起因すると考えられている。
◆ピーター・サルスティグ参天製薬チーフ メディカル オフィサーのコメント
近視人口の増加は、世界的にも日本国内においても大きな社会課題となっている。リジュセアミニ点眼液0.025%の製造販売承認の取得は、近視の進行抑制を効能・効果として日本で初めて承認を受けた点眼剤治療となり、近視の医学的管理において非常に重要なマイルストーンと言えるだろう。
また、近視は参天製薬が本剤から新たに取り組む疾患領域であり、開発中の他のアトロピン点眼剤と合わせ、グローバルのピークセールス約600億円を見込んでいる。人々の目の健康を追求する参天製薬として、日本を皮切りに世界中の近視患者さんに新たな治療方法を提供できるよう、引き続き注力していく。