冷房空調空間での寒さ改善等の評価方法・制御技術進化への応用に期待
早稲田大学人間科学学術院の永島計教授らの研究チームは、ウエアラブル型の簡便な脳波計を用いてヒトの温熱感覚に関わる脳の部位と活動パターンを発見した。
永島教授らは、ヒトの温熱感覚に関わる脳の部位とその活動パターン解明を目的に、簡便なウエアラブル型脳波計を用いた解析を実施したところ、温刺激や冷刺激を指先に行うと、共通する脳部位での活動が見られることを発見した。
脳活動は、温冷刺激各々に特異的な活動パターンがあるため、分別可能であり、さらには脳波計測から暑さや寒さの感覚(温熱感覚)の客観的評価につながると考えられる。温熱感覚が主観的評価でしか成し得ない現状に対して同研究成果は、個体間の感受性の違いによる健康被害(特に冷房空調空間での寒さ)を改善するための評価方法や制御技術の進化への貢献が期待される。これらの研究成果は「Neuroscience」で11月24日にオンライン掲載された。
「暑い」「寒い」「熱い」「冷たい」などと表現される温熱感覚は、我々の日常生活の中でも身近な意識にのぼる感覚である。末梢神経での温度受容の分子機構は明らかになっているものの、ヒトが温度情報をいかに認知し、評価するかは未だ不明な部分が多くある。
同研究チームによる以前の研究で、機能的MRIを用いて、熱さ、冷たさに関わる共通する脳部位を同定した。だが、これらの2つの感覚がいかに分別されているかは不明のままであった。
同研究では、ウエアラブル型の簡便な脳波計を用い、指先に刺激した温冷刺激時に活動する脳部位と脳活動パターンを明らかにした。脳部位のいくつかは以前に明らかにされたものと共通であったが、温、冷刺激各々に特徴的な活動パターンが観察された。
意識にのぼる温熱感覚に関わる脳機構は未だ明らかでない部分が多く、同研究は新しい方法論や知見を導いた意味で大きなステップとなるものと期待される。
また、温熱感覚の評価は未だ質問紙や点数化した評価申告などの主観的評価が用いられており、大きな問題を抱えている。特に、室内環境の維持に重要な空調技術の進化は目覚ましいものがあるが、その一方で「その制御目標となるパラメーターである温熱感覚が主観的評価でしかなしえない」という大きなギャップがあるのが現状だ。
主観的評価の曖昧さや個体間の感受性の違いによる健康被害(特に冷房空調空間での寒さ)を改善するための評価方法や制御技術の進化に同研究は貢献できると考えられる。
◆研究者のコメント
意識にのぼる温熱感覚は、ヒトの行動や適切な屋内環境を決定する上で重要な因子である。本研究の代表者は、長く温熱感覚の脳機構の解明、モニタリング法の開発に取り組んできたが、良い答えを見つけることができずにいた。
今回の研究は、空調や脳波研究の専門家の協力を得て完成し得たものである。今後の研究や産業創出の大きな流れの起爆剤になる結果であると信じている。