2026年度診療報酬改定は‟薬局の見える化”がキーポイント 森昌平中医協委員(日本薬剤師会副会長)

近畿薬剤師学術大会ハイライト

 第26回近畿薬剤師学術大会の分科会「調剤報酬・診療報酬~中医協委員からみた今後の診療報酬改定の展望」では、中央社会保険医療協議会の診療側委員を務める茂松茂人氏(日本医師会副会長)、林正純氏(日本歯科医師会副会長)、森昌平氏(日本薬剤師会副会長)が、2024年度診療報酬改定改定を振り返り、26年度改定の見通しを示した。その中で、森氏は、2026年度診療報酬改定のキーポイントとして「薬局の見える化」を訴求した。
 2024年度の診療報酬・調剤報酬の改定は、社会保障審議会、医療保険部会、医療部会による「診療報酬改定の基本方針」として示された。今回は、①物価高騰・賃金上昇等の影響を踏まえた対応、②全世代型社会保障の実現や、新興感染症等など医療を取り巻く課題への対応、③医療DX、イノベーションの推進等による質の高い医療の実現、④社会保障制度の安定性・持続可能の確保や経済・財政との調和ーの4つの柱に基づいて議論され改定が行われた。

森氏

 森氏は、まず、診療報酬改定の政策形成過程として、2月:「診療報酬改定について答申、答申付帯意見」→「中医協 次期改定に向けて論議開始」→4月:「財政制度分科会」→6月:「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針等閣議決定)」→「医療保険部会 医療部会 度基本方針の検討開始」→10月:「財政制度分科会」→12月:「医療保険部会 医療部会 基本方針とりまとめ」→「中医協が厚労大臣あてに改定意見提出」→「診療報酬改定に関する大臣折衝事項(改定率決定)→1月:「厚労大臣から中医協会長あてに諮問」→2月:「中医協から厚労大臣に答申」ーの手順を紹介。その上で、26年度改定に向けての取り組みとして「‟薬局・薬剤師のサービスの見える化”が最も重要になる」と強調した。
 さらに、‟薬局・薬剤師のサービスの見える化”のキーポイントとして、①国民・患者、②医師・歯科医師、③医療・介護の他職種、④市町村、県、⑤保険者、⑥国ーからのそれぞれの評価の大切さを指摘し、「これらの評価を実現すれば我々は生き残れる」と訴求した。
 薬剤師・薬局が役立っている根拠となる事項としては、「疑義紹介、お薬手帳、在宅における地域の状況に応じた対応」などを列挙し、「薬局・薬剤師は、地域住民が必要とする医薬品等を‟何時でも”、‟どこでも”、‟誰にでも”‟どんな医薬品でも”適正な価格で過不足なく提供し、国民が安全・安心に医薬品を使用できる体制を構築しなければならない」と力説した。
 地域包括システムの姿では、「薬剤師は様々な場に関わることができる。薬局は医療、介護、予防など地域の様々なサービスを提供する役割が可能である」と断言し、薬局・薬剤師が果たすべき役割として、「誕生から終末期に至るライフステージ全てを通じた薬剤師による健康サポート、服用薬の一元的・継続的・全人的な管理・指導」を挙げた。
 薬剤師と歯科医師の連携では、「処方箋を発行していない歯科医師に対して、情報提供を行えば点数が付くように改定される」見通しを示唆した。
 最後に、2026年度調剤報酬に向けての具体的な要点として、①薬局間連携による「医薬分業制度」の実現、②激変する社会への対応(人口減、過疎化、医療需要、疾病構造、医療資源の変化、地域差、社会のデジタル化、インフレなど)、③かかりつけ機能の強化、④多施設、多職種連携の強化(チーム医療・介護の推進)、⑤DX活用によるより高い薬剤師サービスの提供、⑥各種計画、提言、施策、規制改革等への対応、⑦薬局の機能、薬剤師サービスの見える化ーを強調した。⑦については、焦点の一つとして「時間外にどのようにして処方箋を受けるのか」を指摘し、次回改定に向けて‟薬局の見える化”の重要性を重ねて訴えかけた。

茂松氏

 一方、茂松氏は、診療報酬改定の仕組みについて「中医協は、配分の決定のみで、改定率決定、予算大臣折衝内容の変更の権限はない」と説明した上で、「改定率決定時の大臣折衝では、改定のたびに対応すべき項目が具体化され、財源も紐付きとなり、最近は中医協の裁量が縮小している。地元選出国会議員と連携し、地域から声を上げて行くことが必要・重要になる」と最近の中医協の傾向を語った。
 また、2024年度改定では、「改定率は本体部分がプラス0.88%で決着したが十分とは思っていない。病院薬剤師、看護師など医療スタッフへのベースアップ、処遇を改善するには、もっと上げていただく必要がある」と力説した。なお、病院薬剤師、看護師など医療スタッフの賃上げの原資には本体部分の0.61%分が充てられ、24年度に2.5%、25年度に2.0%のベースアップが実施される。
 茂松氏は、今年7月から国家戦略特区として大阪市が全国で初めて実施している‟薬剤の一包化”の薬局間での受託にも言及し、「信頼して処方箋を出せないようになるので、我々は賛成できない」と反対の立場を表明した。医療DXについては、「日医は、総論的には有効と思われるが、各論的に考えれば今はそういう状況にはないと考えている」と紹介し、「国民が安心・安全に医療が受けられるための業務の効率化として、医療DXを構築していく」重要性を訴えかけた。
 さらに、「今すぐデジタル化に対応できない患者や医師はたくさんいる」と言い切り、「仮にデジタル化に対応できなくても、患者はこれまで同様の医療を受けられ、医療機関が医療を提供できる環境を確保した上で、医療DXを進めてほしい」と主張した。

林氏

 林氏は、医療DX推進について「医療関係各法の制度的枠組みや、国・自治体の補助金等の予算措置など総合的な政策が必要」とした上で、「医療DX推進は、医科歯科連携や医歯薬連携のさらなる推進に向けたキーポイントになる」と明言。「電子処方箋、標準型電子カルテや電子カルテ情報共有サービスの運用により医療機関連携も円滑になる」との見解を示した。
 また、今後、歯科界がやるべき事項として、「改めて国民の健康・生命・生活を守る立場の歯科医療を再検証し、引き続き安心・安全で質の高い歯科医療を提供」を挙げ、その実現のために「口腔疾患の重症化予防、口腔機能低下への対応の充実、生活の質に配慮した歯科診療が推進できるように各方面に要望したい」と抱負を述べた。

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