「ナノスーパーアゴニスト」 強力かつ安全な抗腫瘍免疫療法として実証 ナノ医療イノベーションセンター

がん治療や自己免疫性疾患など幅広い治療領域での応用に期待

 川崎市産業振興財団 ナノ医療イノベーションセンターのオラシオ・カブラル客員研究員らの研究グループは、サイトカイン複合体を搭載した「ナノスーパーアゴニスト」による抗腫瘍免疫活性化に成功した。
 抗腫瘍免疫活性が知られているインターロイキン 15(IL-15)とその受容体αドメイン(IL-15Rα)の複合体をポリマーコーティングで安定化させた「ナノスーパーアゴニスト」がマウスの大腸がんに対して強力かつ安全な免疫療法であることを実証したもの。
 タンパク質複合体は生体内で様々な機能の調整役を担っており、がん治療だけでなく多くの難病を含む自己免疫性疾患など幅広い治療領域での応用が期待できる。
 同研究論文は、米国化学会誌 Journal of American Chemical Society (JACS:) に受理され、ウェブ掲載されている。
 タンパク質複合体は、様々な生体機能において重要な調整役を担うため、治療への大きな可能性を秘めているが、その不安定さと一過性の作用という性質が実用化を妨げてきた。
 同研究では、pH応答性のポリマーコーティングがタンパク質複合体を包み込むことで、体内での安定した送達を可能にするというタンパク質工学に依存しない新規手法を考案し試行した。
 具体的にはインターロイキン15(IL-15)とIL-15受容体αドメイン(IL-15Rα)複合体を搭載した「ナノスーパーアゴニスト」を設計したもので、マウスの大腸がんモデルを用いてその強力で安全な免疫療法の有効性が示された。
 ポリマーコーティングは、IL-15とIL-15Rαの相互作用を強め、体内循環時における酵素や免疫などの攻撃から防御する。
 腫瘍微小環境では、pH 応答性の特性がポリマーコーティングの解離を引き起こし、内包する複合体が放出されることで、IL-15のトランスプレゼンテーションが進み抗腫瘍免疫の活性化を促す。
 このアプローチは、タンパク質複合体を基盤とした治療法の臨床応用に新たな選択肢を与え、がん治療のみならず多くの難病を含む自己免疫性疾患など幅広い治療領域での応用が期待される。
 同研究では、ポリマーコーティングがタンパク質複合体の相互作用を安定化させることで、治療薬としての送達を可能にした。この技術は、従来のタンパク質工学に基づく複合体安定化のアプローチとは異なり、次の新規性を提供する。

  • タンパク質工学に依存せずに複合体の安定化を実現
  • 生体環境下での複合体の安定性を保持
  • 腫瘍組織内でのみ複合体を放出し、効果的かつ安全ながん免疫療法を実現  この研究により、タンパク質複合体を基盤とする治療法の臨床応用がさらに進むと期待され、ポリマーやナノ技術を用いた治療薬開発に新たな道が開かれる可能性示された。
     タンパク質複合体は主に動的な非共有結合的相互作用によって形成されるため、pH、温度、イオン強度、機械的ストレス、変性剤、タンパク質分解のような因子に対して不安定で、これらの影響を大きく受ける。
     この研究で用いられた IL-15/IL-15Rα複合体は、単量体 IL-15 やプロテアーゼのような攻撃物質によって破壊され、生体内で複合体の急速な崩壊を引き起こす可能性がある。
     対照的に、ポリマーによるコーティングは複合体を繋ぎとめ、血中のような過酷な環境でもその構造を保持することができた。
     従って、ポリマーコーティングは、治療効果を得るために重要な生体内でのタンパク質複合体の安定性と機能の強化を可能にする。安定したタンパク質複合体を作るためにタンパク質の構造工学にフォーカスして、その送達技術を報告した論文と比較すると、このポリマーコーティング法は、タンパク質工学技術の設計と製造における複雑さを回避する手段となる。
     また、このシステムは、例示したIL-15/IL-15Rα複合体以外の他のタンパク質複合体に対しても容易に応用することができ、普遍的なプラットフォームとして機能する。
     さらに、その pH 応答性の性質を利用して、このシステムはタンパク質複合体を安定な状態での送達を可能にするだけでなく、標的となる腫瘍組織でのみ搭載物の放出を可能にした。
     IL-15に関する「ナノスーパーアゴニスト」の場合、ポリマーコーティングは IL-15/IL-15Rα複合体を酵素などによる攻撃から防御し、ポリマーのpH 制御による脱コーティングが腫瘍特異的な生物活性を可能にしたことで有害事象の緩和に繋がった。
     従って、このポリマーコーティング法は、タンパク質複合体の腫瘍選択的送達のための合理化されたプラットフォームを提示し、治療薬としてのタンパク質複合体の実用性を促すポリマーおよびナノベースのアプローチに関する研究が今後進むものと期待される。
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