分子レベル機能解明研究や創薬研究の基盤合成技術への応用に期待
岐阜大学糖鎖生命コア研究所の安藤弘宗教授らのグループは、ADP/ATP生体分子の効率的合成法の開発に成功した。ADP/ATP生体分子は多様な生物学的プロセスで重要な役割を担っており、これら生体分子や化学修飾アナログの合成法の開発は、分子レベルでの機能解明研究だけでなく、創薬研究においても重要である。
これまで数多くの化学合成法が報告されているが、いずれの合成法においても収率の再現性がしばしば得られないことが課題であった。これは、ADP/ATP生体分子合成で用いる基質に親水性が高いリン酸基が存在するために、基質からの含水が避けられず、完全な脱水条件で反応を行えないからである。
同研究では、再現性の課題を克服するため、脱水条件を必要としない信頼性の高いADP/ATP生体分子の効率合成法を開発した。同成果は、ADP/ATP生体分子の分子レベル機能解明研究や創薬研究に向けた基盤合成技術になると期待される。これらの究成果は、本年7月19日発刊の国際学術誌『Chemistry-A European Journal』に掲載された。
ADPやATPを含む生体分子(ADP/ATP生体分子)は、多様な生物学的プロセスで重要な役割を担っている。ADPリボースとニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)はADP生体分子であり、前者はDNA修復や遺伝子転写制御に関わり、後者は生体内の酸化還元反応の補酵素として働いている。
また、天然に存在する代表的なATP生体分子としてメッセンジャーRNA(mRNA)の5′cap構造があり、mRNAの翻訳開始の促進、酵素分解からの保護をする働きをする。このため、これら生体分子や化学修飾アナログの合成法の開発は、分子レベルでの機能解明研究だけでなく、創薬研究においても重要である。
これまで数多くの化学合成法が報告されているが、いずれの合成法においても収率の再現性がしばしば得られないことが課題であった。これは、ADP/ATP生体分子合成で用いる基質に親水性が高いリン酸基が存在するため、基質からの含水が避けられず、完全な脱水条件で反応を行えないからである。こうした背景から、再現性の高いADP/ATP生体分子の化学合成法の開発が望まれている。
同研究では、 再現性の課題を克服するため、脱水条件を必要としない、信頼性の高い ADP/ATP 生体分子の効率合成法の開発に取り組んだ。 今回、安藤氏らは、既知のリン酸基活性化剤 のイミダゾール部 2 位に、疎水性で立体的に小さいメチル基を導入した活性化剤を設計・合成した。新規リン酸基活性化剤は含水条件においてもほとんど加水分解されず、加えてアデノシンモノリン酸( AMP )のリン酸基に 2- メチルイミダゾール脱離基を導入できることを見出した。最適化した反応条件において、 AMP と含リン酸基質との縮合が円滑に進行し、良好な収率で ADP リボシル化ペプチド、アルキンタグ NAD+ 、 mRNA の 5′cap 構造など、多様な ADP/ATP 生体分子を合成することに成功した。同合成法の利点として、基質に保護基を用いる必要がなく、エッペンドルフチューブで基質と新規リン酸基活性化剤を順次混ぜ合わせるシンプルな手順であり、多少の含水であれば収率に大きな影響を与えないことが挙げられ、再現性の高い合成法となっている。
同研究では、再現性の高いADP/ATP生体分子の効率合成法を開発した。この合成法は通常の有機合成で必要なガラス器具や脱水操作が必要なく、基質さえ入手できれば、誰でも簡単に確実にADP/ATP生体分子を合成できる。
同成果は、構造が均一なADP-リボース、NAD+、mRNA分子の化合物群を構築できる可能性があり、ADP/ATP生体分子の分子レベル機能解明研究や創薬研究に向けた基盤合成技術になると期待される。なお、同研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業、日本学術振興会研究拠点形成事業、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業、サントリー生命科学財団、宇部興産学術振興財団の支援のもとで行われた。