基幹製品の伸長や抗がん剤上市、再生・細胞医薬事業の本格化で必ず再成長路線に乗せる 住友ファーマ木村社長

 6月25日付で住友ファーマ代表取締役社長に就任した木村徹氏は、医薬通信社の取材に応じ、売上収益の柱となる米国の基幹製品オルゴビクス(進行性前立腺がん治療剤)、マイフェンブリー(子宮筋腫・子宮内膜症治療剤)、ジェムテサ(過活動膀胱治療剤)の2024年度の滑り出しについて報告。
 「4月、5月は、計画よりも強含みで推移しており、本年度の売上目標は達成できるだろう」と強調し、「米国における合理化後の新体制の下で基幹製品を伸長させ、国内事業体制の適正化にしっかりと取り組めば、24年度は資産売却(200億円)を含めてのコア営業利益10億円(最終赤字は160億円)、25年度は、資産売却無しでの最終利益の黒字転換が達成できる」と言い切った。
 同社の現状については「奈落の底に転がり落ちているのではなく、既に底に到達して這い上がりかけている」との認識を示し、「3~4年間北米で基幹製品と他家培養胸腺組織のリサイミック(23年度売上高63億円)をしっかりと拡大していけば、26年度には抗がん剤の上市、27年度には新たな抗がん剤上市と再生・細胞医薬事業が本格化し、必ず再成長路線に乗れる」と訴えかけた。
 同社では、26年度に抗がん剤のDSP-5336(急性骨髄性白血病)、27年度にはTP-3654(骨髄線維症)の上市に加えて、再生・細胞医薬事業のグローバル売上高100億円以上を見込んでいる。

米国の基幹製品 売上目標は必ず達成

 住友ファーマの23年度連結決算は、ラツーダ(非定型抗精神病薬)の米国での独占販売期間が終了し、同剤に代わる米国の基幹製品の伸長が予想より遅れたため、売上収益が大きく減少、減損損失等も加わり、最終赤字が3150億円に膨らんだ。
 木村氏は、基幹製品の売上予想が大幅に減少した要因として、「完全子会社化したマイオバントの影響」を挙げる。マイオバントは昨年3月10日に買収したが、「経営陣が少数株主の保護に過剰に配慮していたため、住友ファーマが得られる情報が非常に限られていた」
 そのため、23年度は基幹製品の売上予想が実際のポテンシャルよりもかなり大きく見積もられ、その数字をクリアできず赤字が膨らんだ。昨年7月からは、住友ファーマが得た数字に基づいた売上予測を立てているため、「実際の売りと予想の乖離の幅が殆どなくなった」
 木村氏は、「4月、5月は、3製品ともに計画よりも強含みで推移している。6月の状況はまだ分からないが、本年度の基幹製品の売上目標は達成できるだろう」と強調する。
 競合品であるミラベトリック(アステラス)の後発品上市の影響が懸念されたジェムテサは、「6月の途中まで想定通り伸びている」
 その理由は、「後発品上市によって過活動膀胱に対するβ3アゴニストの市場そのものが拡大された」ためで、「ジェムテサは、シェアは下がっているものの、売上は堅調に推移している」 マイフェンブリーも減損はしたものの、「予想通り売上が増加している」
 基幹製品は米国上市後約3年を経過した。木村氏は、米国で2000億円以上のブロックバスターにまで成長を遂げたラツーダを例に挙げ、「単年度黒字になるまでに4-5年を要した」と振り返る。
 その上で、「基幹製品は一部で指摘されているような売れない製品では決してなく、今年度から単品黒字になる」と強調し、「我々の収益を支える製品として順調に育ちつつある」との認識を示した。

再生・細胞医薬事業は順調に進捗

 一方、今後の成長の大きな柱となる再生・細胞医薬事業は、2021年度にリサイミック(小児先天性無胸腺症の免疫再構築)を米国で上市し、2024年度にはパーキンソン病治療用他家iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞の国内承認取得を予定している。
 2027年度には、日本での製品上市の成功を通じた再生医療領域(中枢神経、眼科、希少疾患)での国内リーディングポジションを確立し、リサイミックを含めてグローバル売上100億円以上を掲げている。
 2032年度には、高度な生産技術と最先端サイエンスを追求して販売製品・地域を拡大し、グローバル売上1000億円以上を目指す。
 国内での再生・細胞医薬事業の皮切りとなるパーキンソン病を対象とした他家iPS細胞由来製品は、本年9月までに厚労省に承認申請し、2024年度内の条件・期限付き承認取得を目標にしている。同品の海外上市は30年頃の予定で、ピーク時の売上高はグローバルで1000億円を見込んでいる。
 パーキンソン病に続いて、網膜色素上皮(RPE)裂孔、網膜色素変性、脊髄損傷、腎不全を対象疾患とした他家iPS細胞由来製品の開発が順調に進んでいる。RPE裂孔の国内上市目標は28年度で、既に治験がスタートしている。RPE裂孔は、蛍光モードで写真を撮れば簡単に患者が判別できるため、「その点をうまくアピールして患者の掘り起こしに繋げる」予定だ。

住友化学との再生・細胞医薬事業合弁会社のあり方を検討中

 再生・細胞医薬事業は、住友化学との合弁会社によって推進される。その背景には、「住友ファーマの研究開発費は、これまでの900億円から今年度は500億円に削減された。順調に進捗して胸突き八丁を迎えるこの事業を、その影響を受けずスピードを落とさず進めていく」狙いがある。
 これまで住友ファーマの再生・細胞医薬事業に対する予算配分は、研究開発費の10%以下であったが、各疾患に対する臨床開発のスタートや製造設備への投資により、その枠で収まり切れない。加えて、今年度より研究開発費そのものが500億円に縮小するため、資金対策が急務となる。
 住友化学との合弁会社については、「住友ファーマには、再生・細胞医薬を事業化するための薬事、渉外、CMC機能が全て揃っている。新会社にその機能を持たせれば無駄が生じる」と指摘し、「現在、両社で合弁会社をどのようなものにするか、どのタイミングで立ち上げるかを検討している」
 再生・細胞医薬事業推進のための外部資金導入についても、「この事業を切り売りするということではない。スピードを落とさずに事業推進すれば、政府の補助金や他企業からの資金的な援助なども期待できる。あくまでも住友ファーマと住友化学主体で進める」と断言した。

国内事業は身の丈に合ったスリム化・適正化を推進

 医薬品事業の立て直しでは、北米は、昨年度にスミトモファーマ・アメリカの構造改革を行って大きな手が打たれた。国内は、「導入品による増収を模索しているもののなかなか厳しく、スリム化するなど必要に応じた適正化が不可欠となっている」
 国内事業は、23年度までは黒字であるが、24年度は、本年6月に自社製品のトレリーフ(パーキンソン病治療薬)、12月に導入品のエクア(2型糖尿病薬)に後発品が参入し、来年6月には、導入品のエクメット(2型糖尿病薬)の後発品参入も控えている。
 木村氏は、「現在は、ラツーダありきの社内体制になっており、全部門で課題がある。今の状態で赤字セグメントを抱えるのは非常に厳しい。身の丈に合った形で組織改編する必要がある」と力説する。
 国内は現在、MR約1000名(マネージャー含む)、研究開発約650名の人員を擁するが、「間接部門も含めてより最適化し、会社全体を筋肉質に変えねばならない。研究開発型企業であるため、研究開発は多少削減するかもしれないが、できるだけ残したい」と話す。3交代制でフル稼働している鈴鹿工場は、「さらなる効率化は図るものの、人員削減は行わない」

北米はきちんとした販売体制構築で「売る自信あり」

 昨年度にスミトモファーマ・アメリカの構造改革を行った北米では、従業員を2200人から1000人を削減した。営業面では、オフィスを廃止した販売体制をスタートさせ順調に進捗している。
 「今は、基幹製品とリサイミックで精一杯だが、きちんとした販売体制が構築されている」と強調する木村氏。さらに、「抗がん剤や再生・細胞医薬などの製品が出れば売る自信はある」と自負する。

研究開発はより可能性のある抗がん剤などに注力

 研究開発では、精神神経領域において大塚製薬とのウロタロントの提携枠組みを見直して同剤を大塚製薬に完全導出。CNSの後期パイプラインは無くなったものの、「抗がん剤のTP-3654、DSP-5336など2027年度以内の上市が期待できる剤への臨床開発に注力している」 これまで大塚製薬と統合失調症、大うつ病、全般不安症を対象に共同開発してきたウロタロントについては、「未だに良い新薬候補だと思っている」と評価した上で、「特許期間が必ずしも長くはないので、製品化するにはスピードアップが必要となる。ここ2~3年の開発投資は抗がん剤を進めるよりずっと大きなものになる。うちの今の状況では厳しかった」と大塚製薬への導出理由を振り返る。
 抗がん剤については、「DSP-5336はEHA(欧州血液学会)での評判が良く、確かな手応えを感じている。TP-3654への期待も大きく、これら2剤が製品化されれば、当社の研究開発部門が機能し始めた証である」と訴求する。
 加えて、「社内の実感としては、研究部門は数年前から機能しており効率も上がっている。とはいえ製品を出さない限り評価してもらえない」と赤裸々に話す。

再生医療トップ企業の利点も活かして「必ず自分たちで立ち直る」

 木村氏は、親会社の住友化学が住友ファーマへの出資率(現在約51%)変更の可能性を示唆していることにも言及。「住友ファーマの借入金は4000億円以上になっており、財務状況は悪化している。だが、住友ファーマを売ってしまうのではなく、目利きの点で住友ファーマに出資したり、当社の成長のために良いパートナーがあれば住友化学から提案があると受け止めている」と強調した。
 さらに、「住友ファーマは、復活しなければ買い手も現れない。当社は、世界において将来性を期待できる再生医療のトップ企業の一つであると自負している。こうした利点も活かして必ず自分たちで立ち直っていく。立ち直れば、売ると言うことにはならない」と意気込んだ。
 最後に、「3~4年間北米で基幹製品とリサイミックをしっかりと拡大していけば、26年度には抗がん剤の上市、27年度には新たな抗がん剤上市と再生・細胞医薬事業が本格化し、必ず再成長路線に乗れる。研究開発型の製薬企業としての復活を遂げたい」と力強く抱負を述べた。

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