2028年までに抗マラリア治療薬はP2入り、mRNAワクチンはP1入り目指して 長崎大学と塩野義製薬のマラリア研究包括的連携

左から北氏、永安氏、手代木氏、塩野義製薬上席執行役員 医薬研究本部長井宗 康悦氏、同執行役員 バイオ医薬研究本部長青山 恭規氏

 長崎大学と塩野義製薬は4日、同社本社(大阪市中央区)でマラリア研究の包括的連携に関する協定締結式を開催した。
 同締結により、第二期(2024年4月~2029年3月)事業として、2028年までに複数のマラリア低分子予防・治療薬候補化合物をP2入りまで推進し、mRNAマラリアワクチンは、候補品創出から臨床開発入りを目指す。
 第一期(2019年2月~2024年3月)事業では、塩野義製薬痿と長崎大学は新たに提携した北里研究所、国立感染症研究所など7つの機関と強固に連携しながらマラリアの予防および治療に関する研究を大きく進展させ、マラリアの創薬研究基盤を構築した。
 創薬研究においては、マラリア原虫が赤血球に侵入して発熱、倦怠感、頭痛などの症状を惹起させるメカニズムに着目し、マラリア原虫の赤血球侵入を抑制する新たな低分子の候補化合物などを見出した。ワクチン研究でも、肝臓でのマラリア原虫の増殖を防止する有効性の高いmRNAワクチンを見出した。
 第二期事業では、第一期事業の成果を踏まえ、候補品を早期に開発ステージへ移行させるとともに、さらなるアンメットニーズを満たす新たな創薬研究にも取り組んでいく。
 マラリアは、エイズ、結核と並ぶ世界三大感染症の一つであり、マラリア原虫をもった蚊(ハマダラカ属)に刺されることで感染する。主に熱帯、亜熱帯地域で流行しており、1年間の感染者数は世界で約2.5億人、死亡者数は約61万人と報告されている。予防ワクチンの有効性が十分ではない上、既存の治療薬に耐性を示す原虫が増加してきているため、マラリアは依然として大きな医療ニーズが存在している。
 さらに、マラリアは、近年の気候変動による流行地域の拡大や、2020年の新型コロナ感染症パンデミックによって増加傾向にあり、人類の脅威として世界的に深刻視されている。

手代木氏

 協定継続締結式では、手代木功塩野義製薬代表取締役会長兼社長CEOが、「COVID-19だけでなく、世界には多くの警戒すべき感染症が存在する。サイレントパンデミックが続いており、人類は感染症の脅威にさらされている」と強調。
 その上で、「感染症が起こった時にできるだけ速いスピードでワクチン、診断薬、治療薬するには、製薬企業だけではなく、政府、アカデミア、社会を含むすべてのステークホルダーによる“真のパートナーシップ”の構築が必要となる」と訴求した。
 さらに、今回の協定継続の目的について、「マラリア研究に強みを持つ長崎大学と2019年から進めてきた包括的連携継続し、抗マラリア薬の開発品創出を目指したい」と説明した。

永安 氏

 永安武長崎大学長は、「人畜共通(ワンヘルス)の考えの下、動物から人へ感染が拡大する‟スピルオーバー感染”の研究を強化する体制づくりを確立したい」と強調し、「グローバルヘルスは、安全保障、リスクにも繋がっていく。マラリアの研究を進めて行く中でグローバルリスク軽減に貢献したい」と抱負を述べた。

北氏

 北潔長崎大学大学院 熱帯医学・グローバルヘルス研究科研究科長は、包括連携の成果と今後の展望について言及した。
 北氏は、まず、マラリアの病原体であるマラリア原虫のライフサイクルについて、「ワクチンで予防する‟肝臓ステージ(肝細胞期)”、治療薬のターゲットとなる発熱、倦怠感、頭痛などの症状が出る‟赤血球内ステージ(赤血球期)”、蚊内ステージ(蚊体内期)があり、複雑なライフサイクルを経て増殖を繰り返している」と説明。
 その上で、「マラリアの根絶に向けて、全てのステージにおいて有効な治療・予防法の確立が必要である」と訴えかけた。
 マラリア原虫は、単細胞ではあるもののヒトと同じ真核生物に分類されるため、薬剤のターゲットが類似している。従って、インビトロでマラリア原虫に強い効果を発揮する化合物は、ヒトにも副作用が出現する可能性が高い。
 北氏は、「こうした理由から抗マラリア薬の開発には、医薬品開発のノウハウを持った製薬企業との連携は不可欠になる」と強調した。
 長崎大学と塩野義製薬の包括連携の第1期事業の成果にも言及し、重症化抑制研究では、「マラリア原虫の生存とマラリア重症化に関わる脂質代謝関連タンパク質と複数の創薬ターゲット候補を発見した」
 ワクチン研究では、「高い有効性が期待されるワクチンモダリティの確立、mRNA-LNPを使用した肝内TRM誘導*の肝細胞期マラリア防御に対する有用性を確認した」
 また、新規治療薬創製研究では、「新規ハイスループットスクリーニング系によるシード化合物群や、新規評価系による構造活性相関に基づく複数の有望候補化合物群を発見した」
第2期事業では、「第1期事業で培われた低分子創薬・ワクチン創薬の成果をさらに進展させ、臨床へと繋げる。さらに、これまでに構築した外部との連携をすすめ発展させると共に、新たな連携を構築する」
 具体的には、2028年までに複数のマラリア低分子予防・治療薬候補化合物をP2入りまで推進し、mRNAマラリアワクチンは、候補品創出から臨床開発入りを目指す。
 mRNAワクチンは、マラリア予防では初めての試みで、「我々は、新型コロナ感染症よりも前にトライを開始していた。アジュバント、抗原をしっかりと選定してより良いものを取り上げて、P1へ進めて行く」考えを示した。
 手代木氏は、マラリアmRNAワクチンのモダリティについて、「デング熱ワクチンへの応用の可能性」も示唆した。

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