細胞核の多彩な機能を支えるタンパク質発見 立教大学の研究チーム

筋ジストロフィーを惹起するラミノパチー発症への関与を解明

 後藤聡立教大学理学部教授、岩崎由香慶應義塾大学医学部准教授(現理研チームリーダー)らの研究チームは、細胞核の核ラミナの一様なメッシュ構造(図1A)が、核の多彩な機能を支えていることを、ショウジョウバエを用いて明らかにした。
 細胞の中にある核は、遺伝情報であるDNAを格納し、その保護と遺伝情報の正確な発現に重要な役割を果たしている。核ラミナは、核膜の内側に形成される均一なメッシュ構造である。
 だが、そのメッシュ構造が均一であることは核の機能に必要なのかについては、根本的な問題であるにもかかわらず、永らく未解明であった。
 同研究では、その根本的な問題解明に成功し、核ラミナの均一性が、正常な染色体の高次構造、遺伝子発現、そして核の物理的強度を維持していることを明らかにした。
 また、同研究は、疾患の理解にも貢献すると考えられる。つまり、ヒトの核ラミナの変異による疾患であるラミノパチーでは、筋ジストロフィー様の症状が引き起こされることが知られているが、核ラミナの均一性が異常になったショウジョウバエにおいても筋肉の断裂が観察され、筋ジストロフィー様の症状を示すことがわかった。
 この研究成果は、筋ジストロフィーを発症するタイプのラミノパチーの原因解明に大いに貢献するものと考えられる。同論文は、米国の「Journal of Cell Biology」誌に2024年1月23日(米国時間)にオンラインで掲載された。
 細胞の核は、遺伝情報であるDNAを格納し、その保護と遺伝情報の正確な発現に重要な役割を果たしている。細胞核を詳細に見てみると、まず最も外側には、二重の脂質膜が取り囲み、核膜を形成している。そして、その核膜の内側に核ラミナと呼ばれるメッシュ状の構造体が均一に存在している(図1A)。
 だが、この核ラミナの均一性が重要であるかについては、永らく疑問に思われていたが、未解明のままであった。

図1. 野生型でみられる核ラミナの均一性(A)が、PIGB変異体では乱れてまだらになっている(B)。Bar, 10 μm.

研究の成果

図2. 野生型では均一に分布する核膜蛋白質(核膜孔複合体、A)が、PIGB変異体ではまだらになっている(B)。

 同論文において、後藤氏らは、核膜に局在するタンパク質PIGBが異常になると、核ラミナの均一性が異常になり、図1Bのようにまだらになることを見出した。
 さらに、このPIGBのショウジョウバエ変異体を解析したところ、PIGB以外の核膜タンパク質の局在が異常になり、正常な核構造を維持できないことを見出した(図2)。
 また、核構造が異常になったので、その核の強度が維持されているかを物理的に測定したところ、PIGB変異体では核の強度が著しく低下していることも判明した(図3)。

図3. (A)核を二つのガラス針で核を挟み、加えた力と核の変形度を測定することで核強度を算出する。
(B)核は実線の傾きが急なほど硬い。野生型(WT)に較べ、PIGB変異体(PIGB13)の核は柔らかい。

 核膜は、染色体の高次構造の形成に重要な役割を果たしていることが知られている。そこで、PIGB変異体で染色体の高次構造を網羅的に調べ、正常個体と比較したところ、PIGB変異体では染色体構造が異常になっていることが判った。
 染色体の高次構造は、遺伝子発現に影響することから、PIGB変異体で高次構造が異常になったところに含まれる遺伝子、特に筋肉の発生や維持に関与する遺伝子の発現をいくつか調べたところ、その中に多くの遺伝子の発現に異常が見られた。そこで、PIGB変異体で筋肉を調べたところ、筋ジストロフィー様の筋肉異常を認めた(図4)。

図4. ショウジョウバエ幼虫の筋肉。野生型(A)では秩序だった筋組織が形成されているが、PIGB変異体(B)では筋組織の断裂が認められる(矢印)。

ヒトの核ラミナの変異による疾患であるラミノパチーでは、筋ジストロフィー様の症状が認められるため、同研究成果は、ラミノパチーの理解にも貢献するものと考えられる。
 また、こうした様々な異常が見られるため、PIGBは核の様々な機能を支える重要なタンパク質であることが判った。
 細胞核、特に核膜を裏打ちする核ラミナ構造の重要性については、近年の染色体構造の研究の進展に伴って世界的に注目を集めている。だが、核ラミナの均一性の意義についてはほとんどわかっていなかった。同研究は、世界に先駆けて核ラミナの均一性が重要であることを示し、核の多様な機能を維持していることを明らかにした。加えて、その異常がラミノパチーと同様の症状を示すことから、その発症機序の解明に寄与すると考えられた。
 今後は、PIGBのように核に多様な機能を制御する因子がヒトを含む哺乳動物にも存在することを明らかにし、その異常がラミノパチーの発症に関与するかを解明していく。

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