佐竹マルチミクス(埼玉県)は26日、バイオベンチャーのオリヅルセラピューティクス(OZTx社、神奈川県)と共同で、Brittleタイプの1型糖尿病患者の新規細胞治療法開発を目的とした培養システムの共同開発をスタートしたと発表した。
同社は、2017年より京都大学iPS細胞研究所(CiRA)及び国内製薬企業と共同で、細胞治療に適した均質なヒトiPS細胞由来の膵島細胞(iPIC)を、一度に最大数百億個の大量培養を安定的に実現し得る、世界でも例のない高効率連続培養シングルユースシステム(VMF-SUB/TCSシステム)を開発した。
同システムは、自動制御による灌流培地交換が可能で、1か月程度のiPICの分化誘導を完全閉鎖系での実施を実現したもの。
佐竹マルチミクスでは、引き続き、CiRA及び共同研究先からiPIC関連資産の譲渡を受けたバイオベンチャーであるOZTx社と共に、細胞製造施設に適した仕様へと同システムの最適化を行い、GMP(Good Manufacturing Practice) に準拠した治験薬製造へとつなげていく。
OZTx社は、2024年頃を目途に同システムで製造したiPICの患者さんへの移植を目指す。
なお、iPICは、CiRAの豊田太郎講師が見出した膵分化誘導法を土台に開発された細胞治療への応用に適したヒトiPS細胞由来の膵島細胞である (Sci Rep. 2022;12:4740)。
高効率連続培養システムは、佐竹マルチミクスが剪断耐性の弱い細胞培養を目的として開発・製品化した上下動撹拌培養装置VMFリアクターをシングルユース化したVMF-SUBと、これを完全密閉系で接続したシングルユース連続培養システムTCSを組み合わせたものだ。
iPICのような剪断ダメージに脆弱な細胞に対し、 一般的にVMF-SUBは最適な培養環境を提供することで大量培養を可能にした。加えて、特に付着性の高い本培養系において長期間にわたり目詰まりを起こすことなく、安定した連続培養を可能としたメンブレンデバイスを開発したことで世界的に例のない分化誘導効率及び細胞収量を達成し、産業化に向け飛躍的な前進となった。
この細胞と培地を完全に分離するメンブレンデバイスは、佐竹マルチミクスが独自開発し特許出願中の金属膜と、OZTx社が特許出願中の培地交換ホルダーを融合させることで、通常は困難であった完全な固液分離を実現した。
また、同システムの制御プログラムは、繊細な制御を自動で行えるよう工夫されており、人的な負担とヒューマンエラーのリスクを抑制している。これらシステム全体がシングルユースデバイス・パーツで構成されており、培養用のシングルユースボトル・バッグをはじめ、メンブレンデバイス等は国産としている。
佐竹マルチミクスは、装置供給メーカーとして商用生産に向けた供給リスクを低減するため、一部のパーツやチューブを除き極力メイドインジャパンに拘っており、パンデミックや世界情勢に左右されない供給体制を構築している。
今後は、協力会社と共にパーツ類も国内製へシフトさせる。なお、同共同研究成果は、日本医療研究開発機構(AMED)再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業(再生医療シーズ開発加速支援)の支援を受けて実施された。
OZTx社の先進的で優れた細胞技術、分化誘導法を社会実装するには、それを安定的に低コストで量産するためのシステムが必要不可欠である。同時に、安全で安心な装置・システムであることが求められ、今後はエラーゼロを目指した装置・システム開発を進めていくとともに、さらなるスケールアップに挑戦する。
均質な細胞の連続大量培養の実現は、iPICに限らず再生医療分野におけるあらゆる取組みにおいてコストの面で極めて重要な技術であり、この培養システムの確立は今後の同分野における産業化を飛躍的に加速させるものと期待される。