参天製薬は10日、Sydnexis社(本社:米・カリフォルニア)と、Sydnexis社が独自に開発している低用量アトロピン製剤 SYD-101について、ヨーロッパ、中東、アフリカ地域(EMEA)における独占的ライセンス契約を締結したと発表した。同契約は、スイス法人のSanten SAを通じて締結したもの。Sydnexis社は、進行性の近視治療薬の開発に注力するバイオ医薬品企業である。
SYD-101は、現在、ヨーロッパおよび米国において大規模多施設共同P3相臨床試験(STAAR試験)が実施されており、世界的に存在する近視の治療ニーズに対応する医薬品として、Santenにとって製品戦略上、重要な位置づけのものとなる。
SYD-101は、治験中の低用量アトロピン硫酸塩点眼液(0.01%および 0.03%)で、治療継続率の向上に向け、有効性、安定性の達成および、不快感を軽減するように設計されている。
一方、低用量のアトロピンの有効性は報告されているものの、保存期間が短く、かつ、小児において点眼時に刺激を伴う酸性領域でのみ安定性が保たれるという制約がある。
SYD-101は、独自の処方に基づき、pHを下げることなく薬理学的に安定し、室温で最大3年に及ぶ有効期限を実現させる低用量アトロピン製剤として開発された。
最も一般的な眼疾患のひとつである近視は、患者数が2050年までに世界で 50 億人に達すると予測されており、公衆衛生上の課題となっている。ヨーロッパだけでも、近視の有病率はここ10年で42%近くまで増加すると推定されている。
近視の発生率と重症度の上昇は、子供たちが読書、勉強、デジタル機器の使用などの近業(近くを長時間見る作業のこと)に費やす時間が増え、屋外で過ごす時間が減っているライフスタイルの変化に大きく起因している。
強度近視や急速に進行した近視は、治療を行わない場合、緑内障、白内障、網膜剥離などの深刻な眼疾患につながり、不可逆的な視力低下を引き起こす可能性がある。
現在、ヨーロッパの子供の近視は、眼鏡やコンタクトレンズで視力矯正されているが、進行を遅らせることはできない。こうした症例の増加を受けて、欧州眼科学会は、アトロピンによる治療の導入や、屋外での活動時間の増加を促すガイダンスを発表している。
◆オーストリア・グラーツ医科大学 眼科医のMartina Brandner氏のコメント
近視を矯正しないまま放置すれば、視力の低下を引き起こす。幼少期など早期に発症すると、長期的に眼の合併症を発症するリスクが高くなる。現時点では、近視の症状を矯正する治療法しかないため、本領域で世界最大規模の臨床試験を通じてのSYD-101の研究は、原因疾患に対する治療薬を見つける上で重要な一歩になる。
◆Sydnexis社CEO Kenneth Widder氏のコメント
SYD-101をEMEA地域で展開するという目標に向け、眼科領域のグローバルリーダーであるSantenと連携することになり大変嬉しく思う。
近視は、世界的な課題であり、さらに新型コロナウイルス感染症によるロックダウン期間中のパソコン画面を見る時間の増加などにより、ますます増えることが懸念されている。
EMEA 地域での承認申請プロセスを進める上でSantenの専門知識を高く評価しており、この地域における近視ニーズに協力して取り組んでいけることを楽しみにしている。
◆Santen EMEA事業統括ルイス・イグレシアス氏のコメント
目の健康は、子供の心身の健康において重要であり、発育に影響を及ぼす。治療しなければ、近視の長期的な合併症により、成人期まで患者さんの生活に支障をきたす。
本ライセンス契約を通じて、患者さんの経験から得た学びと、我々の専門知識を結集し、急増する子供の近視に対処していく。
◆参天製薬代表取締役社長兼CEO 谷内樹生氏のコメント
国連総会は先月23日、目の健康と持続可能な開発目標との関連性を考慮し、目の健康に関する初めての決議を採択した。この国連の動きは、目の疾患や不具合に起因する世界中の人々の社会的・経済的な機会損失を削減するための大きな一歩となる。
当社は、急増する近視を社会的な問題として捉えており、眼科に特化したスペシャリティ・カンパニーとして患者さんのアンメットニーズに応えるべく近視領域に取り組んでいく。
また、近視領域は中長期的に当社の成長ドライバーのひとつでもある。欧州で先行して開発されている SYD-101の当社開発パイプラインへの加入により、近視治療に関する事業の効率的なグローバル展開が可能となり、世界中で治療を必要としている近視患者さんへの貢献度の向上につなげていきたい。