がんワクチン開発に向け新規タイプのネオアンチゲン候補同定 がん研究会とNEC

乳がんおよび軟部肉腫の新たな治療法への応用に期待

 がん研究会(本部:東京都)と日本電気(NEC)は7日、がんワクチンの開発に向けて新規タイプのネオアンチゲン候補を同定したと発表した。
 ネオアゲチオンとは、がん細胞の遺伝子変異によって新たに生じる「がん特異的な抗原(目印)」を指し、正常な細胞には存在せずがん細胞にのみ現れるため、免疫系が異物として認識し攻撃対象となる。今回の研究成果は、乳がんおよび軟部肉腫の新たな治療法としての応用が期待される。

 同研究は、全ゲノムデータを用いた新たな個別化ネオアンチゲンがんワクチンの開発に向けた基礎研究において、乳がんおよび軟部肉腫(サルコーマ)を対象に実施されたもの。NEC 独自のAI 技術を活用した解析を行った結果、通常のネオアンチゲンに加えて、ゲノムの配列における機能や役割がまだ解明されていないダークゲノムに由来する多くのがん特異的抗原(クリプティック抗原)を予測することに成功した。これを用いたワクチンを開発することで、今までは治療が困難だったがん種に対しても新たな治療法の選択肢として提示できる可能性が示唆された。
 同成果は、11 月5 ~9 日に米国・メリーランド州で開催される米国がん免疫療法学会(SITC)の年次総会で発表された。
 近年、患者一人ひとりのゲノム情報や遺伝子発現プロファイルに基づき、より効果的で最適な治療を目指す個別化医療が注目を集めている。中でも、患者それぞれのがん細胞に特異的なネオアンチゲンを標的とする個別化がんワクチンを用いた免疫療法は、高い治療効果と副作用低減の可能性から実用化への期待が高まっている。
 日本でも、厚労省による「全ゲノム解析等実行計画2022」が策定されるなど、全ゲノムの解析データを活用した研究・創薬を促進させる取り組みが加速している。
 こうした中、がん研究会とNECは、2024年から全ゲノムの解析データを活用した新たな個別化ネオアンチゲンがんワクチンの開発を目指し、共同研究に取り組んできた。ネオアンチゲンが出現する頻度の多寡は、がん種毎に傾向があることが知られている。
 今回、がん研究会とNECは、ネオアンチゲンの出現頻度が比較的低いと言われる乳がんおよび軟部肉腫の全ゲノムデータを解析した。
 同研究では、ダークゲノムを含むすべてのゲノム領域を解析対象としており、ネオアンチゲンの一種でダークゲノムから生み出される新たなタイプのがん特異的抗原「クリプティック抗原」の探索を、NEC独自のAI技術を活用して行った。
 両者による研究の結果、従来知られていたネオアンチゲンに加えて、多くのクリプティック抗原の存在を予測することができた。これを用いたワクチン開発により、これまで個別化ネオアンチゲンがんワクチンでの治療が難しいとされてきたがん種に対しても、新たな治療アプローチが拓かれることが期待される。
 なお、同研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の「がん・難病全ゲノム解析等実行プログラム」における「がん全ゲノム解析等の臨床的有用性の検証、および、患者還元の体制構築に関する研究」の枠組みの中で実施している。

◆野田哲生がん研究会顧、大津敦研究本部長の共同コメント
 今回、「全ゲノム解析等実行計画2022」(厚生労働省)に基づくAMED研究班において、全ゲノムデータとNEC独自のAI技術を活用し、新たな個別化がんワクチンの開発に向けた基礎研究の成果を発表できることを大変嬉しく思う。 本研究により、従来はネオアンチゲンの発現が限定的とされてきたがん種においても、ダークゲノムに由来する多様ながん特異的抗原(クリプティック抗原)の存在する可能性が示された。今後はこれらの抗原の免疫原性を確認し、個別化がんワクチンの開発を進めることで、次世代のがん免疫療法の実現を目指していきたい。

◆ 西原基夫NEC執行役Corporate EVP兼CTOのコメント
 AMEDの推進するプロジェクトのもと、がん研究会とともに全ゲノムデータとNEC独自のAI技術を活用したクリプティック抗原に関する研究成果をSITCの年次総会で発表したことを大変嬉しく思う。
 NECグループは今後も、AIを活用した革新的な医療を世界中の患者さんに届けるというミッションの実現に取り組んでいく。

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