
京都薬科大学は2日、国立台湾大学との共同研究により、脂肪由来幹細胞の分泌機能を強化すれば心筋梗塞後の血流改善することや、抗がん剤ドキソルビシンによる心臓への副作用(心毒性)を抑える新たな仕組みを解明したと発表した。
これら研究は、心疾患とがん治療の両方にアプローチできる次世代型の治療戦略の基盤となるもので、京都薬科大学独自の研究支援事業「国際共同研究」で採択され、推進されたもの。
脂肪由来幹細胞の働きを強化した「心臓を守る新しい治療戦略」に関するこれら二つの研究成果は、国際学術誌 Regenerative Therapy(2025年11月19日掲載)と、Biology Direct(2025年7月16日掲載)で公表された。
1つ目の研究では、酪酸で前処理したヒト脂肪組織由来幹細胞の培養上清液が、幹細胞によって周囲の細胞に働きかける“パラクライン効果”を高めることで、心筋梗塞モデルラットの心臓の血流が改善することを発見した(Regenerative Therapy誌)。
酪酸は、チーズやヨーグルトなどの乳製品に含まれる成分で、また、腸内細菌も作り出すことのできる短鎖脂肪酸の一種である。この酪酸が、脂肪組織に存在している幹細胞の分泌機能を強化することで、心筋梗塞後の心臓への血流量を増加させることを、SPECT/CTという画像診断法で見出した。
2つ目の研究では、抗がん剤ドキソルビシンによる心臓への副作用(心毒性)を抑える新たな仕組みを解明した。脂肪由来幹細胞の分泌物に含まれるエクソソームが心筋細胞の死滅(アポトーシス)を抑制し、これにはClusterinという保護因子の発現増加とPI3K/AKT経路の活性化が関与していることを明らかにした(Biology Direct誌)。
これらの成果は、超高齢社会やがん治療の進歩に伴って増加する心疾患や心臓への障害に対し、再生医療とがん治療の双方に役立つ新たな治療法の開発につながるものと期待される。
